海外出向中の自殺訴訟が和解 川崎重工が一定の責任認める
川崎重工業(神戸市中央区)から中国の関連会社に出向した男性(当時35歳)が自殺した問題で、遺族が川崎重工に約1億円の損害賠償を求めた訴訟が、大阪高等裁判所で和解が成立した。2026年4月17日、遺族側が記者会見で明らかにした。
和解は4月16日付で行われた。双方は具体的な和解内容を公表していないが、遺族側によれば、川崎重工側が一定額の和解金を支払うことで合意に至ったという。海外企業への出向中に発生した労災事故について、出向元の企業が責任を認めるのは極めて異例なケースであり、遺族側は「勝訴的な和解だ」とその意義を強調した。
一審では会社の責任認められず 控訴審で新証拠が浮上
男性は2002年に川崎重工業に入社し、エンジニアとして勤務していた。2013年4月に中国・安徽省にある関連会社に出向した後、うつ病を発症し、同年7月に19階の自室ベランダから転落して死亡した。神戸東労働基準監督署は2016年、この自殺を仕事が原因による労災と認定している。
一審の神戸地方裁判所(2025年1月判決)では、遺族側が「慣れない異国での勤務による心理的負担と過重業務があったにもかかわらず、川崎重工が負担軽減の義務を怠った」と主張したが、判決は「男性は中国の商習慣に見識があり、業務も過度ではなかった」として、川崎重工の責任を認めなかった。
しかし、控訴審では遺族側が男性のパソコンデータを改めて解析。その結果、出向中で休職扱いであったにもかかわらず、川崎重工からも直接仕事を指示される「二重雇用」状態にあったことが判明した。この新証拠を基に、遺族側は川崎重工にも安全配慮義務があると主張し、今年3月に結審した後、高等裁判所が和解を勧告していた。
海外出向労働者の法的保護の課題浮き彫りに
海外赴任の労働者には、原則として日本の労働基準法が適用されず、労働基準監督署の指導も及ばないという現実がある。さらに、出向者の健康管理や業務量への配慮義務は、一次的には出向先の企業に課せられるため、海外出向者は労働条件や責任の所在が曖昧になりやすい構造的な問題が指摘されている。
今回の和解は、そうした海外出向労働者の法的保護の隙間を埋める重要な先例となり得る。遺族側代理人は会見で、「出向元企業の責任が明確に認められた意義は大きい」と述べ、今後の類似事例への影響に言及した。
一方、川崎重工業は「和解内容についてはお答えを差し控える」とのコメントを出している。和解成立を受けて、夫の遺影を前に会見した妻の験馬綾子さんは、「ようやく夫の死と向き合える一歩となった」と心境を語った。
この訴訟は、グローバル化が進む現代社会における企業の海外勤務者への責任範囲を問うたケースとして、労働法や企業倫理の観点からも注目を集めている。



