16日間の祭典が閉幕した。人と人、地域とアジアを結び、大会後へと続く出会いや交流が生まれた。4日夜、閉会式が行われた名古屋市瑞穂公園陸上競技場を訪れた人たちに笑顔があふれた。
バッジ交換に笑顔
競技場内では、大会の思い出を共有しようと、各国の関係者やボランティアらが、各国のピンバッジを交換する姿があちらこちらで見られた。
ボランティアの王雨涵さん(25)は、中国から名古屋大学大学院に留学中。バッジ交換がはやっているとSNSで知り、この日だけで約40個を交換した。首から提げたバッジを見せながら、「楽しく充実した16日間だった。名古屋の良い思い出ができました」。
バーレーンオリンピック委員会のカメラマン、フセイン・アブドゥーラさん(23)は、各会場で代表チームのバッジと伝統菓子を配り、どこに行っても人だかりができたという。集めたバッジは70個超。「日本の人はいつも笑顔で接してくれ、言葉の壁があってもわかり合えた。次回、中東カタールの大会でもまた会えたら」と話した。
交流の輪が広がる
インドネシア・ジョクジャカルタ出身のイルシャドゥル・イバアドさん(27)は3年前に来日し、介護の仕事に従事する。この日は妻と一緒に愛知県常滑市から訪れた。
2018年のジャカルタ大会には行けなかったが、愛知で開催されることになり、「アジアで一番大きなイベント。わくわくする」と開幕を待った。
インドネシアが金メダルを獲得したバドミントンなどをテレビ観戦した。「アジアみんなで楽しめる機会が、もっと増えてほしい」と話した。
名古屋市天白区の青山悦子さん(48)と紗季さん(14)の親子は、紗季さんの姉がフラッグサポーターを務めた、サッカーのウズベキスタンの試合を観戦。サポーターの迫力や、敗れた後も拍手を送る温かさに感動したという。
悦子さんは、娘がウズベキスタンの国旗を持ったことをきっかけに、他の国にも注目するようになった。紗季さんは、陸上4×100メートルリレーで、諦めず走りきる選手たちの姿が印象に残った。「自分も諦めない」。そんな気持ちになった。中学校で所属するバレーボール部の新人戦をがんばるつもりだという。
大阪府の間瀬安紀子さん(51)は競技会場でボランティアを務め、閉会式に招待された。奈良、兵庫、広島からボランティアに加わった仲間3人と再会し、観覧した。「仕事や年齢、肩書に関係なく、出会うことができるのがうれしいし、刺激を受けた」。アジアパラ大会のボランティアにも申し込んだといい、「きっとまた会える」とほほえんだ。
競技で「つながる」
1日にあった柔道の男子81キロ級では、藤原崇太郎選手が日本勢24年ぶりの金メダルを獲得した。その藤原選手を初戦で苦しめたのは、日本では無名のマレーシアの若手アミール・ダニエル選手(21)だった。寝技で技ありを取ってリードしたものの、残り1分を切ったところで足車で一本を奪われた。
「あと1、2秒抑え込めば、こちらが一本を取れたのだが……。悔しいがマレーシアの柔道の将来につながる負けだった」。教え子の健闘を会場で見守った海外協力隊員の松岡主税(ちから)さん(24)が、胸を張った。
愛知県みよし市出身の松岡さんは愛知大卒業後、2024年からマレーシアに渡り、代表選手らを指導してきた。「アミールの活躍で、柔道を志す現地の子どもたちが増えていることがうれしい」
恩師の故郷での大舞台は悔しい結果に終わったが、アミール選手は「日本人選手に得意の寝技が通用したことは自信になった」。12月のグランドスラム東京での雪辱を期し、師弟で稽古に励む日々が続く。
大会で見つけた人生のお手本
大会には多くの人がボランティアとして参加し、競技運営や観客案内などをサポートした。名古屋市瑞穂区の堀田さくらさん(53)は、eスポーツの会場で通訳ボランティアを務めた。案内をした観客や関係者から笑顔で返されたり、在留外国人のボランティアと一緒に英語で対応をしたり。さまざまな国から集まった人々と笑顔を交わす中に身を置くことができたと感じているという。
「自分のやってみたいこと、できることをやる人生にしたい」と参加した大会。同じ通訳ボランティアで、人生のお手本にしたいと思える人にも出会った。結婚や子育て、仕事を両立させ、退職後も新たな挑戦を続けている女性だという。「自分の少し先を歩んでいる人と出会い、自分自身の次のステージに向けて何かがつながったような気がした」
今年の4月、日本語教員の国家資格を取得した堀田さん。今後も、多文化共生に何らかの形で携わっていきたいと考えている。
茶文化を通じた交流
ボクシング会場となった愛知県の西尾市総合体育館では、大会期間中、特産の抹茶をPRするイベントが開かれた。市内にある高校の茶道部など、関係者が抹茶やまんじゅうを振る舞い、日本の茶文化を通じた交流を広げた。
イベントブースの運営に携わった森田真弓さん(45)によると、土日祝日には海外からの大会関係者や観客など約200人が訪れた。「まろやかで、飲みやすい」と好評だったという。抹茶が購入できる場所を頻繁に尋ねられたほか、中には毎日のように来る人もいた。
大会がなければ接点を持つことのなかった人たちと、言葉を交わす機会になった。森田さんは、「西尾の抹茶の魅力を広げることができてよかった」。SNSの連絡先を交換した人もいるといい、「今後も、抹茶を通じたやり取りや交流が続くといいですね」。