南海トラフ地震への備えが叫ばれる三重県内で、シンクタンクの研究員として働く傍ら、防災士の資格を生かし、災害時に住民同士が助け合う「共助」が機能するためにはどうすべきか、日々知恵を絞る人物がいる。三十三総研調査部副部長の松田拓さん(43)だ。
「人はなぜ動けないのか」を探求
松田さんは度会町出身。大学卒業後の2006年に旧三重銀行(四日市市)へ入行し、営業や広報を担当。21年には第三銀行との合併という節目に、事務局の一員として立ち会った。
22年にシンクタンクの三十三総研へ移ってからは、「人は分かっているのになぜ動けないのか」をテーマに、働き方や組織マネジメントなどを分析している。
自身の葛藤が原点に
根底にあるのは「葛藤の連続だった」という中学・高校時代の苦い経験だ。国語の授業で音読の順番が回ってきた時、緊張で声が出ないことがあった。「頭では言いたいことは分かっているのに、声が出ない」ともどかしさを抱えた。
自身の経験からたどり着いた結論は「人間である以上、誰にだって葛藤はある。意欲がないのではなく、動ける条件がそろっていないだけ」という考えだ。
調査が示す「相互のブレーキ」
研究員として24~26年に延べ約2000人を対象に行った意識調査では、「災害時に助けを求めることをためらう」と回答したのが4割超。一方で「声をかけることが誤解されないか心配する」と答えた人も4割を超えた。
県民らへの意識調査から見えてきたのは、助ける側も助けを求める側も互いに声をかけるのをためらう構図だ。松田さんはこれを共助の「相互のブレーキ」と名付け、互いがブレーキを緩めるための方策を探った。
実践と研究の両輪で備えを
ただし、自身の「葛藤」の経験から「動けない人を責めない」。意識調査では、「役割や窓口、手順が明確なら行動しやすい」との回答が5割を超えており、「人は関わりたくないのではなく、やり方が見えないから止まっている」と読み解いた。
やり方が見えれば動けるはず――。20年には、防災体験の場をつくるボランティア団体の活動に参加。その一環で、25年には防災士の資格を取得し、休日は自費で全国へ赴き、救命方法や炊き出しなどを学び合う防災イベントの運営に汗を流している。
「災害時には公助がすぐ届かず、共助が命を左右する場面が必ず来る」。だからこそ、人と人が直接つながる場を残さなければ非常時に立ち行かなくなる――。そんな危機感が原動力だ。
「『関わらないのが一番安全』で回る社会は、実は一番もろい」。データで構造をつかむ研究者の目と、現場で人と関わる実践者の足、その両方で地域経済と暮らしを守っていく。



