「立地が良ければ、さすがに大丈夫だろう」——出店を考えたことがある人なら、一度はそう思ったはずだ。人通りが多い、知名度もある、家賃も高い。それだけ条件がそろっていれば、失敗するほうが難しそうに見える。しかし現実には、都心の一等地でも、店は驚くほど簡単に潰れる。
しかもその多くは「立地が悪かった」わけではない。むしろ、条件としては申し分のない場所である。では、なぜ続かないのか。理由はシンプルで、「立地が良く見えること」と「商売が成り立つこと」は、まったく別だからである。
ケース1:ターミナル駅なのに客が来ない
ターミナル駅の改札を出てすぐの場所に、テイクアウト専門の店が入った。乗降客数は申し分なく、視認性も高い。家賃は高めだったが「これだけ人が通れば大丈夫」という判断だった。しかし蓋を開けると、そこを通行する人の大半は、電車に乗ること自体が目的だった。急いでいる。手は荷物でふさがっている。立ち止まる理由がない。
人の数と、立ち寄る心理は、まったく別物だったのである。結果として、一日に必要な客数を確保できず、高い家賃だけが毎月確実に出ていくことになった。
ケース2:大型商業施設に出店したのに安定しない
別のケースでは、大型商業施設の一角にサロン系の店を出したオーナーがいた。施設全体への来客数は多く、認知はすぐに取れた。しかし周辺は常に人が行き交うだけで、落ち着かない。サロンに来た人が「また来たい」と感じる環境ではなかった。立地の良さが、業態の邪魔をしていたのである。
どちらも、立地が悪かったわけではない。問題は、その場所を通行する人の「行動の意味」と、自分の商売に必要な「使われ方」が、最初からかみ合っていなかったことである。
人が多い場所ほど、店は比較される
人が多い場所ほど、店は常に比較される。コストも高い。似たような店、もっと分かりやすい店、すでに選ばれている店が並ぶ中で、「なぜこの店なのか」が伝わらなければ、選ばれない。
つまり、立地が良く見えるほど、自然に売れるのではなく、選ばれる理由が、より厳しく問われるということである。一方で、長く続いている店を見ると、必ず別の要素を持っている。立地条件そのものではなく、「誰に、何を、どんな価値として提供しているのか」がはっきりしている。だから、多少条件が厳しくても、選ばれ続ける。
立地は、あくまで条件の一つにすぎない。それだけで店が続くほど、商売は単純ではない。この事実を受け入れない限り、出店判断は何度でも同じところでつまずく。



