カネカの「グリーンプラネット」は、植物油を与えて培養した微生物が生み出す生分解性ポリマー(高分子)だ。プラスチックの原料となり、不要になれば、微生物の力によって水と二酸化炭素に分解できる。石油由来のプラスチックによる海洋汚染が世界的な課題となる中、ストローや食器、人工芝など様々な製品に使われるようになっている。
開発のきっかけは1991年、偶然の微生物発見
開発のスタートは1991年に遡る。「将来、石油に依存しない素材が必要になる」。カネカの研究者はそんな思いを抱え、全国を巡ってポリマーを作り出せる微生物を探していた。偶然にも見つかったのは、兵庫県高砂市にある自社工場の敷地内。土の中に目当ての微生物がいた。
その後、20年以上かけて微生物を大量に培養し、ポリマーを生産する技術を確立した。さらにストローや食器といった用途ごとに最適な微生物やポリマーの配合を突き止めようと、研究を重ねた。
製品化から普及まで、コストと認知度の壁
ようやく製品が世に出たのは2019年。第1号はコンビニのレジ横で売られているコーヒーのストローだった。
だが、その後はなかなか広がらなかった。要因は大きく二つ。まず石油由来のプラスチックに比べてコストが高い。加えて従来のプラスチックと見た目や使い勝手が遜色ない分、皮肉なことに環境に配慮した素材だとわかりにくい。企業にとって採用するメリットが見えにくかった。グリーンプラネットのマーケティングを統括する高橋聡(56)は「一般の消費者に、植物由来で環境に配慮した素材だと理解してもらう必要がある。とにかく知名度を上げなければと考えた」と話す。
スターバックスとの出会いが転機に
同じ頃、飲食業界が導入していた紙のストローに対し、口当たりや耐久性への不満の声が目立ち始めていた。
高橋らが注目したのが、全国にカフェを展開する米国発のスターバックスだった。世界各国で石油由来のプラ製ストローの全廃を進めており、日本でも20年から紙ストローに切り替えていた。
「スタバのストローに採用されれば認知も広がる」。日本法人のスターバックスコーヒージャパンに何度も働きかけ、22年にフォークやナイフなどのカトラリーに採用。それを足がかりに本丸のストローについても提案を重ねた。
スタバ側は「ストローの廃棄量を半分近く削減できるうえ、自然界で分解され、プラスチック環境汚染問題の解決に貢献できる」(林山美樹・資材調達チームマネージャー)と採用を決めた。
緑色ストローへの挑戦、技術革新のスピード
スタバがこだわったのは、ブランドを象徴する「グリーン(緑)」の復活だった。だが、カネカの生分解性ポリマーで緑色のストローを作るのは想像以上に難しかった。
生分解性を損なわず、安全性を満たす顔料は限られていた。色ムラが生じ、一度決めた配合を最初から見直したこともあった。顔料メーカーや加工会社とも協力し、試作を繰り返した。用途開発チームを率いる杉山武史(44)は「高いレベルの要望に応えるからこそ、技術革新のスピードは速まる。何より、これが世に出れば大きな反響になるという思いがモチベーションになった」と振り返る。
完成したストローが25年にスタバの店舗に登場すると、注目度が一気に高まった。現在は約200社が採用し、用途は人工芝やルアー、食器のほか、ショッピングバッグや歯ブラシなど約40種類に広がっている。
今後の課題は資源循環の仕組み作り
今後は使い終わったグリーンプラネット由来の製品を回収し、資源循環させていく仕組み作りが課題となる。高橋は「環境のために不便さを強いるのではなく、どちらも両立する素材として社会に貢献していきたい」と力を込める。



