元マイクロソフト副社長で、アスキー創業者の西和彦氏は、日本がソフトウェア分野で後れを取っている原因について、ハードウェア(機器)の製造から撤退したことを挙げる。
ハードとソフトの相互作用
西氏は「私はパソコンのハードとその中に入るソフトウェアの両方を作ってきた。両方が分かるからこそ言えるが、現在、日本がソフトで後れを取っているのは、ハードを作らなくなったからだ」と指摘する。日本メーカーは以前はテレビやパソコンを製造していたが、中国などとの価格競争に敗れて撤退し、携帯電話も多くのメーカーが手がけていたが、スマートフォンでは製造から撤退した。
西氏は「ハードはソフトとの相互作用で成り立っている。機器の能力が高まれば、それを生かしていいソフトができる。機器を作らないとソフトのことも分からなくなる」と説明する。日本のものづくりの力は世界トップクラスだが、ソフトは「普通(レベル)」だという。ハード製作の力を生かしてソフトの力も引き上げるべきだったが、日本メーカーは作らないことを選んだと述べ、「ソフトが弱くなったのはハードを作らなくなったことが原因だろう」と語る。
ゲーム分野の強さと半導体の経験
日本がゲーム分野で強い理由について、西氏は「任天堂やソニー系がゲーム機というハードを作っているからだ」とし、「ソフトで負けないようにするにはハードを作り続ける必要がある」と強調する。
西氏は1980年代から90年代にかけて国産半導体の開発事業に携わった際、日本と米国の技術者の質の違いを痛感したという。当時、米国の半導体企業ではコンピューター科学の博士号を持つ人材が設計を担当していたのに対し、日本では大学卒業後にメーカーへ就職した技術者が設計を手がけており、専門知識に大きな差があったと振り返る。技術者の数も圧倒的に不足しており、「これでは米国に到底太刀打ちできない」と強く思ったという。
西氏は、学問的な知識を軽視する日本の産業界の状況は今も変わらないと指摘する。2017年から東大の研究室で責任者を務め、学生に教える機会もあったが、企業が博士号取得者を雇わないため、博士課程まで進む学生が少なく、研究者の量が減少していると述べる。
新大学設立への取り組み
西氏は「このままでは日本がさらに後れを取ってしまう」と危機感を抱き、世界で通用するソフトとものづくりの技術者を育てるため、新しい大学の設立に向けた準備を進めている。現在の日本の教育は多くの科目を満遍なくできることを求めすぎて、技術という一芸に秀でた人材が埋もれてしまっているとし、「私が技術者としてパソコン産業の創造に挑戦したのは20代だった。新しい大学で、次の時代を担うような『本物の技術者』を育てたい」と語る。
西氏は早大在学中にアスキー出版(後のアスキー)を創業し、1970年代から80年代に米マイクロソフトで副社長を務めた。東大IoTメディアラボラトリーのディレクターなどを歴任し、現在は2029年に開学予定の日本先端工科大学(仮称)の設立準備を進める。70歳。



