実務を通じて見えてくるのは、不動産そのものよりも、その後の「家族の関わり方」が問題の本質になっているケースが少なくないということです。
「兄弟仲は良いので、共有名義にしておけば問題ないと思っています。」相続のご相談の現場で、こうしたお話を伺うことは少なくありません。確かに、遺産分割の場では「公平に分けたい」という思いから、不動産を兄弟姉妹で共有するケースは多く見られます。しかし、その場では全員が納得していても、数年後にあらためてご相談に来られる方の多くが、こう口をそろえます。「最初はうまくいくと思っていたんです……。」
「公平」と「円満」は必ずしも一致しない
例えば、親が賃貸アパートを所有していたケースで考えてみましょう。相続人は長男と長女の二人。「公平に」という考えから、それぞれ2分の1ずつの共有名義で相続しました。ところが、その後さまざまな問題が表面化します。
長男は近くに住んでいるため、入居者対応、修繕業者との打合せ、管理会社とのやり取りを日常的に担っています。一方、長女は遠方に住んでおり、ほとんど管理には関わりません。それでも家賃収入は折半です。やがて、「管理は私ばかりなのに……」「修繕費まで負担するのは納得できない。」という不満が生まれ、最初は円満だった兄妹関係も、少しずつぎくしゃく始めます。こうした事態は特別なケースではなく、共有名義による相続の現場で繰り返し見られる、いわば典型的なパターンです。
不動産は「所有」より「管理」が難しい
前回の記事では、不動産は持っているだけでも管理コストがかかることをお伝えしました。賃貸不動産であれば、さらに空室対策、家賃設定、修繕の判断、管理会社との協議、将来の建替えなど、継続的な意思決定が求められます。つまり不動産は、「所有する財産」であると同時に「経営する資産」でもあるのです。
したがって相続の場面では、「誰が所有するか」だけでなく、「誰が経営するのか」まで決めておく必要があります。ここを曖昧にしたまま名義だけを整えても、資産価値を維持・向上させることはできません。
共有名義そのものが問題なのではない
誤解していただきたくないのは、共有名義そのものが悪いわけではないという点です。問題の本質は、役割と意思決定の仕組みが決まっていないことにあります。ルールを取り決めないまま共有すると、時間の経過とともに意見がまとまらなくなり、結果として資産の劣化や機会損失につながることもあります。
こうしたトラブルを防ぐには、相続が発生する前から家族で話し合っておくことが重要です。例えば、「このアパートは長男が管理してほしい。」「代わりに他の財産で調整しよう。」といった方向性を親が示しておくだけでも、相続後の混乱は大きく軽減されます。また、賃貸経営に関わる子どもには、生前から管理や入居者対応を経験してもらうことも有効です。突然「今日から大家です」と言われても、誰でも戸惑うものです。役割分担や責任の所在をあらかじめ整理し、必要に応じて管理規約や合意書といった形に残しておくことも、後々の相続人同士の解釈のズレを防ぐ一助になります。
不動産にも「経営」の視点、そして「舵取り役」が必要
一般に「家族経営」というと、会社をイメージする方が多いかもしれません。しかし、賃貸不動産の運営も本質的には同じ構造を持っています。所有者がいるだけでは経営は成り立ちません。家族それぞれの立場や意見を調整し、役割を分担しながら、長期的な視点で運営していく舵取り役が必要です。
複数の相続人が関わる不動産経営では、家族間の利害調整そのものが、実は最も難易度の高いプロジェクト・マネジメントだと言えます。融資や修繕といった個別の論点だけでなく、家族全体の合意形成を含めて全体最適を図る視点があってこそ、資産価値の最大化と円満な家族関係の両立が可能になります。
相続では「誰が相続するか」に意識が向きがちです。しかし、不動産について本当に重要なのは、「誰が管理し、誰が意思決定するのか」という点です。所有者が複数いても、責任者と意思決定の仕組みが曖昧であれば、管理も経営も持続しません。相続不動産を円満に引き継ぐためには、財産を分けることだけでなく、家族の役割まで含めて設計しておくことが大切です。そうした準備こそが、不動産の資産価値を守るだけでなく、家族の良好な関係を将来にわたって守ることにもつながるのです。



