京都・平安神宮で行われる時代祭を彩る装束は、専門家らの時代考証に基づき、実物を現代によみがえらせた工芸品で「動く博物館」とも呼ばれる。行列を担う約2000人分の装束は、同神宮の収蔵庫で厳重に保管されてきた。
収蔵庫に約1万2000点、130年前からの技術
美しいレンガの外壁が印象的な収蔵庫は四つの部屋があり、箱に収められた装束のほか、馬車や調度品など約1万2000点が並ぶ。伝統服飾工芸協同組合(六選会)に所属する装束店が修理や新調を担当し、130年前から技術を脈々と受け継いできた。
平安神宮の室川豊史権禰宜は「幕末から明治に衰退した京都の復興を願って始まった祭り。支えてくれる住民や職人らとともに、当時の人々の夢を未来へつないでいきたい」と話す。
後継者不足、家族外の育成に挑む
制作する装束店は大量生産とは一線を画した家内制手工業で、子どもが継承しないこともある。家族以外が住み込みで修業し、技術を身につける習慣もあったが、現代では珍しくなり、後継者不足は深刻だ。
六選会に所属する黒田装束店では、黒田幸也社長(66)と長男・基起さん(31)が技術を受け継ぐ。基起さんは大学卒業後、1年間の広告会社勤務を経て2018年に家業に就いた。
装束の修理や新調の仕事は、祭りを控えた夏から秋に集中する。雨の中での実施だった昨年は、衣装の縮みや染色のにじみ、縫い目のほつれなどが目立ち、修理点数は例年の2倍の約100点に上った。基起さんは「装束司としては、衣装が傷みやすい雨天の開催は避けてほしい気持ちもある」と複雑な胸の内を明かす。
基起さんは一通りの技術を身につけたが、感覚が重要な手仕事のため、スピードにはまだ不安を抱える。「装束には3代前が修繕した糸が残っていることもあり、制作の勉強になる。有職故実にのっとった『本物』の技を伝えるためにも、もっと腕を上げたい」と語る。
京都仕立工房、7人が独り立ち
装束店の仕事は、生地の発注から裁断、縫製といった仕立てが中心だが、単独の店で完結できない。調度品制作を含め、分野によっては専門の技術を持つ別の仕立て業者や、衣服以外の小物の制作を工芸職人に外注する業務もある。
和服を着る機会が少なくなり、仕立て業者の数も減る中、六選会の高田装束店など4社は2016年、若手の育成を目的に京都仕立工房を設立した。工房では時代祭の装束制作も担っており、これまでに7人が独り立ちした。現在も20~50歳代の男女5人が腕を磨いている。
技術と伝統を守るためには、同業者が手を取り合うことが求められる時代。工房代表で高田装束店の加藤充則社長(57)は「血縁にこだわらず、業界全体で職人を育てたい。裾野を広げて仕事を請け負っていくことが、時代祭の継承につながるはずだ」と力を込めた。