相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負った事件から26日で10年になる。
午後3時ごろ、入所者の小林正人さん(37)は日中の作業を終え、お風呂の時間までの間、毎日同じ行動を繰り返す。廊下を行っては戻り、空を見上げる。居室棟のドアをそっと閉めると再び開けて外廊下へ足を向け、手すりをつかみしゃがむような姿勢でゆっくり歩く。その繰り返しは2時間以上に及ぶ。
そのそばで職員は静かに見守る。せかすことも止めることもなく、時間を共にする。
行動の背景にある思いを探る
小林さんには知的障害と、自傷や他害などが見られる「強度行動障害」がある。言葉によるコミュニケーションは難しく、職員は表情や声の調子、視線の先から思いを探る。
繰り返しの行動について、ある職員は「本人なりに次の行動へ移るタイミングを探しているように見える」と話す。無理に行動を切り上げさせると、不安やストレスが高まり、居室の壁を殴るなどの行動につながることもあるという。
職員らは入所者一人ひとりの日々の表情や行動を記録し、どんな声かけを喜び、どんな関わりを嫌がったのかの積み重ねを大切にする。それを手がかりに、本人が何を望み、どんな暮らしを送りたいのかを探っていく。
職員の負担を分散する体制
いつ終わるか分からない行動に寄り添い続ける職員の負担は小さくない。そのため小林さんら入所者には18人の職員が支援の方針や記録を共有し、誰でも対応できる体制を取っている。
事件前は慣れ親しんだ職員に対応が集中することが多かった。今は担当を固定せず、交代しながら支援する。入所者が特定の職員に依存することを防ぐだけでなく、職員が一人で抱え込まないためでもある。アンガーマネジメント研修も実施し、怒りをなくすのではなく、感情と適切に向き合う方法を学ぶ。
職員が精神的に追い込まれた結果、不適切な対応や虐待につながることがある。そのため、支援が難しいと感じた時は別の職員に交代し、ストレスや負担を分散する。
事件から10年。入所者だけでなく、支援する職員も支える体制が強化されてきた。その先にあるのは、入所者の行動の背景にある思いや意思を理解しようとする支援だ。
入所者が何を考えているのか、本当のところは本人にしか分からない。それでも職員らは、答えを急がず、決めつけず、入所者の歩みに合わせて模索を続けている。



