能登半島地震により区間運行を余儀なくされた黒部峡谷鉄道トロッコ電車で、一時的に終点となった「猫又駅」は、全国で唯一「猫」がつく鉄道駅だ。駅名を生かしたPRは、キャニオンルートの延期が続いた約2年間、多くの観光客を“招き”寄せ、トロッコ電車を活気づかせた。
猫又駅のPR企画、全国から約440件の応募
猫又駅は、黒部川沿いの発電設備などの工事関係者専用の駅だ。ホームが電車の車両より短かったため、仮設のホームやトイレを整備し、2024年10月から一般利用を始めた。同駅はそれまで、ほとんど存在を知られていなかった。PRを担当した黒部峡谷鉄道営業部の野島千夏さん(27)は、「担当になって初めて、ここにしか猫がつく駅がないのを知った」という。
PRのため行ったのは、飼い猫の写真を使った駅の名誉助役任命書発行と、缶バッジ贈呈だ。ネット上で写真を送り、実際に黒鉄を訪れれば、誰でも受け取ることができた。企画の裏には、自身も猫を飼う野島さんの確信があった。「飼い主にとっては、自分の猫が『特別』になるのが一番うれしい」
全国からは約440件もの応募があった。同社営業部の谷本悟チーフマネジャーも、「猫を飼う人は、猫のために何でもする行動力がある」と納得する。
マスコット「またにゃん」誕生、限定切符やシールも展開
25年には、マスコットキャラクター「またにゃん」も誕生。名前の公募には、全国から400件以上の応募があった。猫又駅にパネルが置かれ、デザインされた限定切符や、シールなどの商品も展開された。
宇奈月温泉でも「猫」を盛り上がりにつなげる動きがあった。「福多屋菓子舗」では、こしあんとぎゅうひを薄い生地で挟んだ名物「おもかげ」に、焼き印で猫のマークをつけた。若女将の羽柴千春さん(52)は「お客さんが減り、暗い話題も多い中で猫又の存在は地元にとってありがたかった」と振り返る。
猫又駅での一般客の降車は、9月末で終わった。野島さんは、「一緒に色々なPRをやりきった。またにゃんには、また何かの形で活躍してもらえれば」と充実した表情を見せた。
宇奈月温泉、空き店舗に飲食店誘致へ
黒部宇奈月キャニオンルートへ接続する黒部峡谷鉄道トロッコ電車の発着地・宇奈月温泉。開放が延期となってからの約2年間、温泉街では複数の店が経営をやめた。関係者は、ルート開放を「変革のチャンス」としたい考えだ。
2024年の能登半島地震によりルートの開放は延期された。区間運行となったトロッコ電車は終点・欅平駅の手前にある猫又駅で、引き返すことになった。震災前は宇奈月温泉と欅平の往復約3時間に加え、欅平で散策が1~2時間かかった。一方、猫又には20分しか滞在できず、宇奈月―猫又間は往復約2時間。宇奈月温泉への宿泊はどうしても減ってしまう。
危機感をもった黒部・宇奈月温泉観光局や宿泊業関係者らは昨年、活性化を目指すプロジェクト「宇奈月ビジョン2045」を始めた。最初に目指したのが「昼食難民」の解消だ。宇奈月温泉ではここ数年で飲食店が5軒ほど閉店。観光客へのアンケートでも、飲食店を求める声が上がった。
温泉街には手入れすれば使える空き店舗も多い。ルートを呼び水にし、外部から飲食業者を誘致できれば、出店コストも低く抑えられる。観光局などが調査し、利用できそうな空き店舗が13軒見つかった。持ち主と交渉し、9月には閉店した飲食店「梅の家」を借りることが決まった。今後、使用する事業者を探す。観光局の川端康夫代表理事は、「ルートの発着地として、宇奈月を単なる通過点にはしない」と意気込む。