大阪市西成区の路上でシンナーを吸引し、毒劇物取締法違反で逮捕されたヒデキ(46)。牧師の西田好子(69)は、ヒデキを「屑」と呼び毛嫌いする長老のオチ(73)を連れて、留置場の面会室へ向かった。オチはこれまで感情を抑えていたが、突然立ち上がり、アクリル板に拳をぶつけた。
「屑やった俺も変わった」
「よう聞け!」。オチは「ずっとあんたのことは人間の屑やと思ってたんや」と語りかけた。西田が思わず腰を浮かせる中、オチは静かで力強い言葉を続けた。「でも、屑やった俺も変わった。あんたも変われ。変わるなら俺は喜んで迎え入れる。悪と縁を切って奉仕しろ。西田先生の言うことを聞くと約束せえ」。
オチがヒデキに発した初めての前向きな言葉だった。新約聖書の100匹の羊飼いの話にあるように、迷い出た1匹を捜し出すことが神の愛につながる道だと、オチも頭では理解していた。しかし西田がその説話を体現しているのに、自分は感情のおもむくまま反発していた。
面会時間の変化
決められた15分の面会時間が過ぎた。冗舌だったヒデキはオチの言葉から一転して静かになり、何事かを考え込むようにして面会室を後にした。西田はオチの肩に手を置き「よう言うた」と伝えた。オチは小さくうなずいた。長い付き合いの2人には、それだけで十分だった。
ヒデキは9月に起訴され、大阪拘置所に移送された。裁判が始まるまでの間、西田は10回以上面会に訪れた。ヒデキの面会室での態度は、オチが叱咤した9月の面会の時期とぴったり符合して変わっていた。西田の視線から目をそらさなくなり、「カネカワさんは元気か?」と信徒を気遣う言葉が自然に出るようになった。何より、何度断酒を迫られても「酒だけは」と渋っていたのに「病院行ってきっぱり酒やめるわ。今度こそ、生まれ変わる」と約束するようになった。
「夢」は本物
西田は「ヒデキは器用な人間とちゃう。生まれ変わりたいというあの子の『夢』は本物や。屑とかゴミというレッテルを引っぺがして見返してやる。それは私の……私だけやのうてメダデの夢でもあるんや」と語る。公判は10月31日。西田はヒデキに請われ、証人として出廷することになった。



