キャリアの絶頂だった28歳で、難病のために演奏活動を断念した女性チェロ奏者がいた。「悲劇の天才」と呼ばれた英国出身のジャクリーヌ・デュ・プレ(1945~87年)だ。
「悲劇の天才」と呼ばれたチェロ奏者
デュ・プレは16歳でデビューし、すぐに世界的な名声を得た。しかし20代後半から体の不調を訴え、次第に体の自由がきかなくなり、42歳の若さで亡くなっている。
病名は「多発性硬化症」。神経を覆う組織が壊され、手足のしびれや体のふらつき、視力の低下など多様な症状が出る。30歳前後の女性の発症が多いとされる。
治療法の進歩で変わった患者の日常
大阪大准教授の奥野龍禎さんへの取材で、この病気のイメージは大きく変わった。ここ10年ほどで薬の選択肢が増え、早期に診断を受けて適切な薬を使い続ければ、大半の患者が症状を抑えながら仕事や日常生活を維持できるようになったという。
薬の選択肢が少なかった頃、奥野さんは寝たきりとなった患者の床ずれをケアしていたという。「今では、通院する患者さんが『責任ある仕事を任されて多忙だ』とぼやくのを聞いています」と感慨深げに話した。
治療法の進歩が、多くの患者のキャリアや夢をつないでいる。