緊急避妊薬の薬局販売が2026年2月に本格的に始まったことで、若年層への対応が新たな課題となっている。産婦人科医の種部恭子氏は、薬局での販売によって子どもへの性暴力が表面化しにくくなる危険性を指摘する。
若年層の相談実態と懸念
内閣府が全国の性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターを対象に行った調査(2022年6〜8月)によると、相談者の年齢は12歳未満が16.7%、12歳~中学生が13.2%、中学校卒業~19歳が19.9%だった。相談内容は「強制性交等・準強制性交等」が最多で約半数を占め、次いで「強制わいせつ・準強制わいせつ」となっている。
種部氏は「被害に遭った10代の子たちは、親にも相談できず、加害者や性的搾取のあっせん者に言われるまま緊急避妊薬を求めに来ることもある。加害者が家庭の中にいる場合は、私たち産婦人科医が話を聞こうとしても、『内緒にしたい』『言えない』と加害者をかばう。そんな状況のなかにいる子どもに薬だけ渡して帰してもいいのか」と懸念を示す。
緊急避妊薬OTC化より重要なこと
緊急避妊薬のスイッチOTC化にあたり、薬局では試験的な販売を実施し、服薬指導や連携方法について検討を重ねてきた。しかし、試験販売は研究として実施されたため、倫理指針に基づき16歳未満は販売対象外とされていた。つまり、本格運用開始後、16歳未満への販売が始まったばかりであり、種部氏が挙げたような困難事例への対応はこれから発生する。
日本では避妊を行っている場合でも、その方法はコンドームか腟外射精といった男性の意思決定に依存する手段がほとんどである。女性が主体的に妊娠するかどうかを決められるピルなどの確実な避妊法の実行率は、国連のデータによると4%と極めて低い。望まない性行為が行われた場合、96%は女性の意思によらない妊娠を引き受けやすい状況にある。緊急避妊薬の入手ハードルが下がることは望ましいが、ゴールはそこではない。
日本の学校教育では「はどめ規制」があり、小中学校では性交に関することを扱うことが発達段階にふさわしくないとされ、性暴力の加害者を生まないための性教育が行われていない。性交同意年齢未満への性暴力の罰則は欧米と比較して著しく軽く、子どもへの性暴力への対応は著しく遅れている。その中で、性暴力から子どもたちをどう守るのか。緊急避妊薬の隠れた役割を今一度考え直す必要がある。



