能登町の特別養護老人ホーム「第二長寿園」に8月27日、尚絅学院大(宮城県名取市)教授の三好敏之さん(67)らが訪れ、入所者一人ひとりに声をかけながら手足の指や股関節、首の筋肉などをゆっくりとほぐした。
体を動かす心理療法
一室で行われていたのは、体を動かして心身の状態の改善を図るとされる心理療法「臨床動作法」。入所者の顔からは自然と笑みがこぼれ、目をぱっちりと開く人や、診療中に歌い出す人もいた。
平根サツキさん(89)はこれまで上がらなかったという腕が上がり、「魔法みたいや」とほほえんだ。動作法は相手に合わせて声かけをし、気持ちをリラックスさせながら行う。体を自分で動かしてもらうことが重要という。三好さんは診療中、「不安な心を取ってあげれば、体は自然と動くんや」と力を込めた。
被災者に寄り添うケア
兵庫県出身の三好さんは1995年の阪神大震災で自宅が全壊。被災した自らの経験をもとに、被災者の気持ちに寄り添いながらケアを施していく。
能登半島地震で家を失った石見順子さん(90)に「つらかったな、この町がいいもんな。ぼくも地震で家がつぶれたんよ」と優しく語りかけると、「なんもなくなるもんね、遠いところからありがとうね」と手をさすられた石見さんの顔はほころんだ。
これまで東日本大震災の被災地でも被災者と交流してきた三好さんは「急には聞けないので、体をほぐしながらさらっと聞く。つらかったよねっていう一言がうれしいんですよ」と話す。
施設職員も驚きの効果
入所者の心身の変化は、普段の世話をしている施設の職員らにとっても目を見張るものだった。施設長の中村充宏さん(56)は「介護度が高い入所者が多く、指示が通るのか不安だった。実際に見てみると、とても楽しい時間だったと思う」と振り返った。
三好さんは能登地域での支援を希望しており、今回の交流がようやく実現した。訪問前には、これまでやってきたことや動作法は運動療法でなく心理療法であることなどをまとめた資料を送付。この日も施設の職員らに入念に説明してから臨んだ。「こちらもいたわってもらい、効果が出るのが早かった。能登の人柄の良さなのかな」と三好さんは笑った。
入所者の体は翌日に再び硬くなってしまうかもしれない。それでも、「この日感じた安心だ、大丈夫だという思いは、心の中に残り続けていく。そこに僕たちが来たかいがある」。初めて診療に訪れた能登で、確かな手応えを感じていた。



