香港で中国の禁書を販売し、中国当局に拘束された林栄基(リン・ロンジー)さんが2026年7月2日、死去した。享年は非公表だが、2025年末から病気療養中だった。林さんは香港から台湾に亡命し、台北で「銅鑼湾書店」を再開。生涯をかけて言論弾圧と闘い、思想の自由、表現・出版の自由、民主主義の価値を守ろうとした。
台湾での再出発と病との闘い
林さんは2020年4月25日、台北市内に銅鑼湾書店を再開。2024年には台湾の身分証を取得し、実質的に台湾社会の一員となった。しかし、2025年末から病気を理由に書店を一時休業し治療に専念していたが、帰らぬ人となった。
台湾で書店を再開した際、林さんは「自由と民主主義の空気に満ちた台湾で再び店を開けるのは本当に嬉しい」と語った。単に本を売るだけでなく、人々が自由に議論し、社会のあり方を批判的に考えられる場を守り続けることに強いこだわりを持っていたとされる。
読書を通じた権威主義への抵抗
林さんは台湾での開店にあたり、「読書を通じて人々が思考力を養い、押し寄せる権威主義の圧力に対抗するための思想的拠点を築きたい」との考えを明確に示していた。
台北の銅鑼湾書店では、香港時代のようなゴシップ性の強い政治本ではなく、「民主主義」「自由」「人権」、そして台湾と香港の歴史や未来に焦点を当てた選書が行われた。具体的には、2019年の香港における逃亡犯条例改正案への抗議運動など民主化運動の記録や、中国の全体主義化を分析した学術書・政治書が並んだ。また、台湾民主化の歴史や国家としてのアイデンティティーを扱った書籍、独裁体制への抵抗や人権擁護、社会運動に関する国内外の翻訳書や哲学書も充実していた。
台湾社会における象徴的存在
林さんは台湾社会において、単なる外国人書店主ではなく、中国の脅威に直面する台湾の最前線に立つ象徴的な存在として受け止められた。一方で、その評価は大きく二分されていた。
蔡英文(ツァイ・インウェン)前総統や頼清徳(ライ・チントー)総統をはじめとする民主進歩党(民進党)政権や立法委員(国会議員)らは、林さんの姿勢を強く支持した。蔡氏は開店日に祝意を寄せ、頼氏も直接店舗を訪問している。訃報に接し、頼氏は「平凡な方法で自由の尊さを教えてくれた不屈の勇気」と最大級の哀悼の意を表した。
また、台湾での書店再開に向けたクラウドファンディングでは、わずか数カ月で目標を大きく上回る約600万台湾ドル(約2150万円)が集まった。台湾市民が彼の再起を温かく迎え、連帯を示したことを物語る出来事だった。
林栄基さんの警告と遺産
林さんは生前、「香港の次は台湾、そして日本」と警告し、中国の権威主義の拡大に警鐘を鳴らしていた。銅鑼湾書店は香港時代から中国当局の弾圧を受け、林さん自身も拘束された経験を持つ。それでも彼は闘いをやめず、台湾で書店を再開し、自由と民主主義の灯を消さなかった。
林さんの死は、言論の自由と民主主義の価値が依然として脅かされている現実を改めて浮き彫りにした。彼が遺した書店とその精神は、台湾そして世界中の人々に受け継がれていくことだろう。



