2026年7月10日に成立した改正個人情報保護法には、AI(人工知能)開発を目的とする場合、本人の同意なしに個人データを提供できる特例が盛り込まれた。この背景には、事業者団体による規制緩和を求めるロビー活動があった。経団連や新経済連盟とともに活動の中心を担った日本IT団体連盟(IT連)の別所直哉常務理事が、その意図と今後の課題を語った。
「本人の同意」依存からの脱却
別所氏は、今回の改正で最も重要な成果として、「AI開発のためなら本人の同意を不要とする特例を盛り込めたこと」を挙げる。日本の個人情報保護法は従来、本人の同意に強く依存してきたが、別所氏は「それが本当にいいのかという問題意識があった」と説明。欧州連合のGDPR(一般データ保護規則)には、正当な利益のために同意を不要とするルールが存在することを指摘した。
懸念と批判への反論
病歴などの機微情報まで同意なく提供可能となる特例には、懸念や批判が寄せられている。これに対し別所氏は、「自分たちのデータを大切に使いたいと思う普通の事業者であれば、相手方をきちんと調べた上で取引する」と述べ、日本ではレピュテーションリスク(評判低下の恐れ)が強く意識されるため、悪用は限定的だと主張する。
一方、資金繰りに困った事業者がデータを売却するリスクについては、「悪質な事業者が出てくる可能性はゼロではない」と認め、「別途、対策を考える必要がある」と述べた。
課徴金・団体訴訟への反対理由
事業者団体は、法令違反企業への課徴金制度や被害者救済の団体訴訟制度にも反対してきた。別所氏は「我々としては、本当に課徴金制度が実効的な規制手段なのか疑問がある」と説明。過度な罰則はイノベーションを阻害するとの立場から、慎重な制度設計を求めた。
別所氏は1999年にヤフーに入社し、著作権法改正や消費税法改正など数々のデジタル関連法制に関与。IT業界では「伝説のロビイスト」と呼ばれる。2020年に退社後、今回の個人情報保護法改正では課徴金と団体訴訟制度に関する検討会にオブザーバーとして参加した。
改正法は、AI開発のためのデータ利活用を促進する一方、プライバシー保護の観点から批判も強い。今後の運用次第で、個人情報の取り扱いをめぐる議論がさらに活発化しそうだ。



