習近平の訪問先で大気汚染が20日前から改善?中国指導者の「神通力」をデータ検証
習近平訪問で大気汚染20日前改善?データ検証

中国の政治指導者が訪問する都市では、あたかも「神通力」のように大気汚染が改善する現象が確認されている。東京大学社会科学研究所の伊藤亜聖准教授らが分析した論文「国家指導者の訪問と一時的な大気汚染の改善:中国の都市における実証的証拠」(2020年発表)によれば、習近平総書記の地方視察の約20日前から大気質指数(AQI)が平均して約10.9%改善するという。

習近平総書記の訪問と大気汚染改善の関連性

分析では、2013年12月から2017年4月にかけての習近平総書記の地方視察イベント情報を集計。G20などの大規模国際イベントを除いた52都市、55回の訪問データを用いて、訪問前後のAQIやその他指標の変化を回帰分析で検証した。結果、習近平総書記の訪問の約20日前から大気汚染の改善が始まり、AQIは平均10.9%低下することが示された。この効果は、訪問後も一定期間持続する傾向にある。

論文の頑健性を確認するため、当時の李克強総理(在任2013~2023年)の訪問効果も検証。同様に大気汚染の改善が観測されたが、習近平総書記の訪問ほどの大きな改善効果は見られなかった。この差は、トップ政治家の訪問が地方当局にとってより重大なイベントであることを示唆している。

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歴史的な「密植」エピソードとの共通点

こうした現象は、中国の政治指導者の地方視察に伴う伝統とも言える。ジャーナリストの高口康太氏(千葉大学客員教授)は、毛沢東時代の「密植」エピソードを引き合いに出す。毛沢東が人民公社を視察した際、水田にありえないほど稲が実っているように見せかけるため、実際には別の場所から稲を集めてきて大豊作の絵柄を作ったという。現代の大気汚染改善も、これと類似した「演出」の可能性がある。

中国は長年、大気汚染に悩まされてきた。政治指導者の訪問前後に青空が広がる現象は、現地の当局が訪問に合わせて工場の操業を制限したり、交通規制を実施したりするなど、短期的な対策を講じているためと考えられる。こうした措置は、訪問中の環境を良好に見せる一方で、根本的な大気汚染対策にはなっていないとの批判もある。

研究の意義と課題

本研究は、中国のトップ政治家の訪問が地方行政に与える影響を定量的に示した点で意義深い。ただし、データ期間が2013~2017年とやや古く、近年の大気汚染改善政策の効果と区別する必要がある。また、訪問先の選定自体が大気汚染の少ない都市に偏っている可能性も指摘されている。

それでも、習近平総書記の「神通力」とも言える現象は、中国の政治経済システムの特異性を浮き彫りにしている。訪問先の空が青くなる背景には、地方当局のトップへの忠誠心と、環境改善の実績をアピールしたい思惑が交錯しているのだ。

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