サウジアラビアの紅海沖に浮かぶリゾート島「シンダラ」が、開業からわずか11カ月で事実上の閉鎖状態に陥り、海外メディアから「きれいな廃墟」と報じられている。建設費は当初想定の3倍にあたる約6500億円(40億ドル)に膨れ上がったが、マリーナからヨットは消え、ホテルは未開業のまま。未来都市計画「ネオム」の初の完成プロジェクトとして華々しくデビューした島は、深刻な計画ミスと調査不足により、富裕層も観光客も呼び込めないまま静まり返っている。
華やかなオープニングから一転、閑古鳥が鳴くリゾート
2024年10月、シンダラの開業を祝う祭典「レッド・シー・ウィーク」が開催された。全長50メートル超のスーパーヨットを含む約65隻の船が集結し、俳優ウィル・スミス、元NFL選手トム・ブレイディ、歌手アリシア・キーズらが来賓を魅了。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、このイベントには少なくとも4500万ドル(約73億円)が費やされた。主催した米高級ライフスタイル誌ロブ・リポートの発行人ルーク・バーレンバーグ氏は「世界で最も功績ある興味深い650人以上を集めた」と胸を張った。
しかし、その華やかさは長く続かなかった。開業から11カ月後の2025年9月、中東湾岸ビジネス誌アラビアン・ガルフ・ビジネス・インサイトは、船舶追跡サービス「マリントラフィック」のデータをもとに、シンダラのマリーナにヨットが1隻も停泊していないと報じた。ロブ・リポートが「カリブ海に対抗する次なる一大ヨット拠点」と宣伝した構想は、現実とかけ離れたものとなった。
ホテルもゴルフコースも未完成、スタッフは暇を持て余す
シンダラ島内では、2024年に開業予定だったマリオット系列のホテル4軒がいずれも予約ページすら存在せず、2023年に発表されたフォーシーズンズの開業は2028年に先送りされた。ウォール・ストリート・ジャーナルはリゾート関係者の証言として、レストランスタッフが客を待ちながら本を読んで暇を潰していたと伝えている。オープンから4カ月経ってもゴルフコースやホテルは一般開放されず、招待客が部分的に訪れるのみだった。
ネオムの公式サイトからは、シンダラ島のプロモーション資料の大半が削除され、ショッピングエリアやビーチクラブへの言及も消えたとアラビアン・ガルフ・ビジネス・インサイトは報じている。建設費は当初の約13億ドルから40億ドル近くに膨らみ、巨額の投資が無駄になりつつある。
調査不足と計画の甘さが招いた致命傷
シンダラの失敗の背景には、着工前の調査不足がある。紅海の強風や海洋環境がヨットの停泊に適さないことが後になって判明。開業パーティーでも強風で入港が遅れるトラブルが発生した。また、島のインフラ整備やアクセス手段の計画が不十分で、富裕層を呼び込むための高級ショッピングやエンターテインメント施設も整わなかった。
さらに、プロジェクトの象徴的存在であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子が開業式典を欠席したことが、内部の懸念を反映しているとみられる。ウォール・ストリート・ジャーナルは、計画に異議を唱えた担当者が解任されたと報じており、強権的な運営が問題を深刻化させた可能性がある。
ネオム全体に広がる暗雲
シンダラの頓挫は、総事業費約240兆円(1.5兆ドル)とされるネオム計画全体に暗い影を落としている。特に、全長170キロメートルの直線都市「ザ・ライン」は、計画が大幅に縮小され、実際に建設が進むのはわずか2.4キロメートル区間に留まると報じられている。サウジアラビア政府は「中止できないから完成させる」姿勢だが、巨額の投資に見合う成果は出ていない。
紅海に浮かぶ「きれいな廃墟」と化したシンダラは、オイルマネーに頼った壮大な計画の脆さを象徴している。専門家は、持続可能な観光開発には徹底した市場調査と段階的なアプローチが必要だと指摘するが、現状ではシンダラが再びヨットで賑わう見通しは立っていない。



