電気自動車(EV)への移行が加速する中、自動車産業の雇用構造に大きな変化が生じている。従来のガソリン車に比べ、EVの部品点数は約3分の1に減少すると言われており、これが部品メーカーの経営と雇用に直接的な打撃を与える可能性がある。
部品点数減少の影響
一般社団法人日本自動車部品工業会の調査によれば、エンジンやトランスミッションなどの主要部品が不要になることで、EVの部品点数は約3万点から約1万点に減少する。この減少は、部品メーカーの売上高と雇用に深刻な影響を及ぼす。同工業会の試算では、2030年までに国内の自動車部品メーカーで約30万人の雇用が失われる可能性があるとしている。
自動車アナリストの加藤光氏は「部品点数が減れば、部品メーカーの仕事も減る。特にエンジン関連の部品を主力とする中小企業は、生き残りが厳しくなる」と指摘する。実際、すでに一部の部品メーカーでは、EV向けの新規部品開発に着手する一方で、従来のガソリン車向け部品の生産縮小を余儀なくされている。
雇用のミスマッチ
EVシフトは、需要のある技能と労働者の技能との間にミスマッチを生む。経済産業省の報告書では、EVの生産にはバッテリーやモーター、パワーコントロールユニットなど、新たな技術分野での人材が必要となる。しかし、従来のエンジンやトランスミッションの製造に従事してきた労働者が、これらの新分野に容易に転換できるわけではない。
大手自動車メーカーの人事担当者は「エンジニアリングの基礎は共通するが、EV特有の高電圧システムや熱管理技術など、新たな知識と技能が求められる。再教育には時間とコストがかかる」と語る。このため、政府は職業訓練プログラムの拡充を検討している。
地域経済への波及
自動車部品メーカーの多くは地方に立地しており、雇用の減少は地域経済に大きな打撃を与える。例えば、愛知県や静岡県、岐阜県などでは、自動車関連産業が雇用の多くを支えてきた。地域経済分析システム(RESAS)のデータによれば、愛知県の製造業就業者の約3割が自動車関連産業に従事している。
名古屋大学の山田教授は「部品メーカーの雇用が減少すれば、地域の消費やサービス業にも悪影響が及ぶ。自治体は産業転換を支援する必要がある」と警鐘を鳴らす。実際、一部の自治体では、EV関連の研究開発拠点を誘致する動きも出ている。
企業の対応
大手部品メーカーは、EVシフトへの対応を急いでいる。デンソーは、2035年までに電動化関連の売上高を現在の2倍に引き上げる計画を発表。また、アイシンは、EV向けの新製品としてeアクスル(電動駆動モジュール)の生産を強化している。
しかし、中小企業の対応は遅れている。ある中小部品メーカーの社長は「EVの受注はまだ少なく、投資に踏み切れない。既存のガソリン車部品の需要が続く間は、様子を見ざるを得ない」と打ち明ける。
政府の支援策
経済産業省は、2023年度補正予算に自動車産業の構造転換支援として約1000億円を計上。このうち、500億円を中小部品メーカーのEV関連設備投資補助に充てる予定だ。また、雇用調整助成金の特例措置を延長し、雇用維持を支援する。
一方で、労働組合も対応を迫られている。自動車総連は、EVシフトに伴う雇用確保を経営側に求める方針で、2024年の春闘では、賃上げとともに、再教育の拡充を主要な要求項目とする予定だ。



