瀬戸内海に注ぐ肱川のほとりに広がる愛媛県大洲市の城下町。古民家が立ち並ぶ風情ある町並みは、かつて消失の危機に直面していたが、官民が立ち上がり、町全体を一つのホテルに見立てた観光モデルに再生する取り組みが実を結び、かつての活気を取り戻しつつある。
城下町の再生プロジェクト
「わあ、きれいな町並みね」。6月中旬、60年前のNHK朝の連続テレビ小説でロケ地となった目抜き通り「おはなはん通り」は、国内外からの観光客でにぎわっていた。松山市から特急で約40分の大洲市は、大洲藩6万石の城下町で、明治から大正期に木蝋業や製糸業などで栄え、豪商の邸宅や町屋など歴史的建造物が軒を連ねる。戦火を免れ、当時の雰囲気のままで「伊予の小京都」とも呼ばれる。横浜市鶴見区から訪れた自営業の山口宣夫さん(70)は「町全体がテーマパークみたいだ」と声を弾ませた。
しかし10年前、中心部はブルーシートで覆われた空き家が点在し、景観は荒れ果てていた。取り壊し予定23軒――。2017年、市の調査で危機的状況が明らかになる。世代交代が進み、転出した所有者が固定資産税などの負担を避けるため、取り壊して土地を売却したいという希望が後を絶たなかった。市などは補助金を投入して景観維持を図ってきたが、税金で町並みを守るのは限界があった。
「分散型ホテル」構想の始動
危機感を抱いた市と地元銀行の伊予銀行(松山市)は2017年6月、再生に向けた勉強会を発足させた。アイデアとして浮かんだのは、空き家を宿泊施設やレストラン、物販施設に改修して町一帯を「分散型ホテル」にする構想だった。市と伊予銀、ホテル運営のバリューマネジメント(大阪市)などは2018年、連携協定を締結。推進役として観光地域づくり法人(DMO)の「キタ・マネジメント」と事業子会社「キタ」を設立した。4年間で総額10億円超を投じる官民の再生事業が始動した。
最大の特徴は、古民家や歴史的建造物を「稼げる資産」に変え、修繕につなげるスキームにある。キタが固定資産税を上回る額で空き家を所有者から借り、自己資金でホテルに改修。バリューマネジメントに貸し出して収益化した。所有者は、修繕費や固定資産税の負担がなくなり、すぐに取り壊す必要はない。15年後に改修後の状態で返してもらうか、より高い額で再びキタに貸し出すかを選べるようにした。
「城泊」事業化で全国的な話題に
キタの代表を務める井上陽祐さん(40)は、大手商社の双日を退職して地域おこし協力隊として町づくりに加わり、「商社がショッピングモールの開発に利用する手法を参考にした」と話す。2020年には大洲城に宿泊できる「城泊」を全国で初めて事業化。市民らの寄付で2004年に木造復元された大洲城は市が管理する。天守を貸し切る1泊1室100万円以上の宿泊プランを打ち出すと全国的な話題となり、知名度も上がった。宿泊費の1割は、城の使用料として市に還元し、2割は宿泊者向けに演じられる伝統芸能の継承に充てる。
この取り組みにより、かつて衰退の危機にあった城下町は、観光客の増加とともに活気を取り戻しつつある。古民家を「稼げる資産」に変えるスキームは、他の地域でも参考になるモデルとして注目されている。



