33歳の男性D氏は、ある日突然、便器が真っ赤になるほどの下血に見舞われた。原因は、就職氷河期世代特有の「くびれ」と呼ばれる人員構成の歪みから、正式な課長が不在の部署で「課長代わり」を強いられたことによる過度なストレスだった。
「課長代わり」を頼まれた33歳に起こった異変
D氏は、本来なら課長が担うべき業務を、肩書きもないまま引き受けていた。会社側は「課長を配置できない事情」から、彼に実質的な管理職業務を依頼。しかし、昇進や待遇改善は伴わず、責任だけがのしかかった。このような「ジョブ・クリープ」(役割の拡大)が、彼の心身を蝕んでいった。
公認心理師で産業カウンセラーの船見敏子氏は、D氏に「バウンダリー(境界線)」の概念を紹介した。これは、他人と自分の間に健全な心の境界線を引き、相手の領域に踏み込まず、自分の領域を守るコミュニケーション手法だ。船見氏は「会社側の事情と自分の立ち位置は切り離して考えるべき」と助言した。
バウンダリー設定で症状改善
カウンセリングを重ねた結果、D氏は上司に対して「メンバーの進捗確認はするが、指示や注意といった権限を伴う業務は難しい」と伝える決断をした。同時に、部長から「遠くない将来に課長になってほしい」と期待されている事実も受け止め、昇進に備えてマネジメントの勉強は自分のペースで続ける約束を交わした。このバウンダリー設定により、下血などの症状は徐々に改善に向かった。
企業が取るべき3つの対策
船見氏は、ジョブ・クリープの問題は個人のバウンダリー設定だけで解決するものではなく、企業側の対策が不可欠だと指摘する。具体的な対策として、以下の3つを挙げている。
- 業務の範囲と権限の明確化:「どこまで」「いつまで」を曖昧にせず、依頼時に明文化し、いつでも助けを求められる体制を整える。
- 評価の見直し:正式な役職でなくても、実質的に管理職の役割を担っている場合、それに応じた手当や評価を与える。
- 中途採用者や非正規からの正規社員にも管理職への道を:生え抜き偏重の体制を見直さなければ、「くびれ」を誰かが埋め続ける状態が続く。
就職氷河期世代が中堅層となった現在、企業はこの「くびれ」問題に真剣に向き合わなければ、D氏のようなケースが後を絶たないだろう。



