WSJ編集者が語る日本企業の針路 ニッチな得意分野で世界に
WSJ編集者が語る日本企業の針路 ニッチな得意分野で

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のアジア総局ビジネス金融部長を務めるピーター・ランダース氏が読売新聞の取材に応じ、激化する米中の覇権争いや中東情勢の悪化など国際情勢が混迷を深める中、日本企業が進むべき針路について語った。2024年に東京からシンガポールに拠点を移した同氏は、中国経済の「二つの軌道」を指摘し、テクノロジーの急速な台頭に注目すべきだと強調する。

中国経済「注目すべきはテクノロジーの急速な台頭」

中国では、不動産不況が深刻化する一方で、AIやEV(電気自動車)、ロボティクスといった産業は目覚ましい成長を遂げている。完全に相反する「二つの軌道」が同時に存在しており、そのどちらもが現実だという。

「我々ジャーナリストにとっても、この矛盾を読者に正しく伝えるのは非常に難しい課題となっている。しかし、日米の企業が注目すべきなのは、テクノロジーの急速な台頭の方だろう」と述べる。

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例えばEV分野では、ほんの数年前まで中国のEVをまともに受け止める人は多くなかったが、今や中国の自動車メーカーが自国市場の70%以上を占めている。自動車産業に関わる人は、誰でも彼らの競争力を警戒しなければならないと警告する。

自動運転(ロボタクシー)の分野でも中国企業の成長は目覚ましい。中国政府の支援はあるが、規制当局も決して無謀ではなく、ロボタクシーで死亡事故が起きれば産業の発展が遅れることを理解している。安全性や世論に配慮しながら段階的に導入を進めているという。

自動運転のソフトウェア領域では、中国企業の「Huawei(ファーウェイ)」や「Momenta(モメンタ)」が業界をリードし、激しく競争している。日本やドイツの自動車メーカーも、彼らのソフトウェアを自社のシステムに利用しているのが現状だ。世界規模の覇権争いでは、米国のGoogle(Waymo)などもトップランナーであり、どの国の企業がこの技術を世界に普及させるか、トップグループでの競争が続くだろうと予測する。

日本の戦略「『ミドルパワー』は現時点で非現実的では」

米国と中国以外の国は、一国で半導体やAI、防衛、エネルギーなどすべての重要分野を国内でまかなうことは不可能だ。日本企業は、自社がグローバルリーダーになれるニッチな得意分野を見つけていくことが重要になる。国家戦略としても、すべての産業を国内に抱え込むことは難しいため、同盟国とのパートナーシップの構築が不可欠だと説く。

「例えば、日本のラピダスが米国のIBMと提携して次世代半導体の工場を建設しているのは素晴らしい例だと考えている」と評価する。

一方で、いわゆる「ミドルパワー」として日本やその他の国が米国や中国から独立してブロックを作るという考え方については、「現時点では非現実的ではないか」と述べる。日米同盟は強固であり、例えば自動車ひとつとってみても米国が世界最大の市場であることを考えれば、米国を中核としつつ、インドや東南アジア、EUといったパートナーとも関係を深めていく全方位的なアプローチが現実的だろうと提言する。

サプライチェーン強化「効率的にリスク減らすコストを自問すべき」

企業は、国が特定のチョークポイント(要衝)の支配を武器化するといったリスクから、自社のサプライチェーンをいかに守るかについて、より深く考えるようになっている。日本は約15年前、中国との間で緊張が高まった際、中国産レアアース(希土類)へ依存するリスクに気づいたが、最終的な対応は十分とは言えず、今日でも一部の分野で依存が続いているのが現状だと指摘する。

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各国や企業は、いかに効率的にリスクを減らすためのコストをかけるかを自問すべきである。レアアースへのアクセスが絶たれた場合に被る潜在的な損失に比べれば、強靱なサプライチェーンを構築するコストは決して高くはない。ただし、それには長年にわたる持続的な努力が不可欠だと強調する。

アジアの少子化「根本的な原因が分かっていないという謙虚な姿勢が必要」

かつて少子化は日本特有の問題だと考えられがちだったが、今や出生率が1を下回るシンガポールや韓国など、アジア共通の課題となっている。さらには富裕国に限らず中所得国にも広がっている。

日本では経済不安が原因の一つにあげられることが多いが、100年前のもっと貧しかった時代でも人々は多くの子供を育ててきた。シンガポールも過去20年間で経済は力強く成長してきたのに、子供の数が減っている。我々は根本的な原因が分かっていないという謙虚な姿勢を持つ必要があると述べる。

解決策の一つとして移民の受け入れがあるが、人口減少を補うには毎年100万、200万人という途方もない規模が必要になる。人口減少を受け入れるというのも一つの道であるし、大切なのは、デマやフェイクニュースに流されず、事実に基づいた冷静で民主的な議論を行うことだろう。

日本は、世界中の多くの国が維持するのに苦戦している「民主主義の価値観」に恵まれている国だと改めて感じている。報道の自由があり、活発な議論が交わされている。AIの進化やフェイクニュース、他国からの干渉など、世界的に民主主義や社会秩序への脅威が高まる中、日本は表現の自由や議論の自由が守られている社会を大いに誇りに思うべきであり、今後もそのような自由な国であり続けてほしいと願っていると結んだ。