配車サービス大手の米Uberは、AI技術に割り当てた2026年の予算を年初からわずか数カ月で使い果たした。最高技術責任者(CTO)のPraveen Neppalli Naga氏は、AIへの支出問題を解決する方法を見つけたと考えている。
AIツールの利用率を4倍に
Naga氏は、2026年初めに「The Information」のインタビューに応じた際、配分していた支出について「振り返って考え直した」と認めていた。Uberは従業員に対し、AIツール、特に米AnthropicのClaude Codeをできる限り積極的に利用するよう促し、ソフトウェアエンジニアを利用量で順位付けする「リーダーボード」まで考案していた。
UberのCTOであるNaga氏は、同社がAIに関する年間予算をわずか数カ月で使い果たしたため、トークンあたりのコストを引き下げたと述べた(ロイター提供)。この取り組みは「tokenmaxxing」(トークンマクシング)と呼ばれる動きの一環である。企業が職場でのAI利用を奨励する一方、多くの企業が、急速な支出を正当化できるほどの投資対効果(ROI)が得られていないことに気付き、取り組みを縮小するというものだ。Uberも例外ではなかったが、Naga氏によると、同社は現在、巨額の費用をかけずにAIを開発する、より良い方法を見いだしたという。
「トークンマクシング時代の終わり」
「AIのコストについて、非常に興味深い傾向が見えている」とNaga氏はXへの投稿で述べた。「これは、いわゆる『tokenmaxxing』時代の終わりが近付いていることを示す、もう一つの兆候だと思う」
Uberが導き出した、巨額の費用をかけずにAIを開発する方法とは何か。Naga氏によると、Uberは最先端のAIツールを利用する従業員の数を4倍に増やしたことで、トークンあたりのコストを引き下げた。これを可能にしたのが、プロンプトキャッシュの改善、デフォルトのモデル設定の調整、新しいモデルの効率性の評価、そしてエンジニアがAIの利用量と1時間あたりのコストを確認できるようにしたことだ。
「利用が加速すればコストも上昇すると考えるかもしれない」とNaga氏は続けた。「しかし、われわれが見てきたのは逆だ。アクセスを制限したからではない。効率性を、予算の問題ではなく、エンジニアリングの問題として扱ったからである」
AIのROIへの期待の高まり
企業が巨額のAI投資から成果を上げることへのプレッシャーは高まっている。先月、Deutsche Bank Research Institute(ドイツ銀行リサーチ・インスティテュート)でマクロ経済・テーマ別リサーチのグローバル責任者を務めるJim Reid氏は、AIによる生産性向上が実現するまでには、なお数年かかると警告した。
「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる大手IT7社の利益率は、2023年第1四半期から2026年第1四半期にかけて15%から25%へと拡大した。一方で、S&P 500指数の残りの企業における利益率の伸びは同期間でわずか10%にとどまっており、直接的なテック領域の外部では、AIによる投資対効果が広く現れているとは言いにくいことを示している。
5月時点でもUberは、AIがもたらすと期待されていたイノベーションを実現しようとしていた。当時、Uberの社長兼最高執行責任者(COO)であるAndrew Macdonald氏は、ポッドキャスト「Rapid Response」のインタビューで「その関連性はまだ確立されていない」と語った。
「おそらく静かのうちに、より多くのものが生み出されているのかもしれないが、そうした統計値の一つと『よし、これで実際に25%多く有用な消費者向け機能を生み出している』という結論との間に一線を引くのは、非常に難しい」
トークンあたりの価格は下落も、AI支出は2倍に
Uberは、トークンあたりのコストを引き下げてAI利用を持続可能なものにする戦略を見いだしつつある。しかし、その一方で、経済学者が以前から警告してきた「ジェボンズのパラドックス」(Jevons paradox)という落とし穴にはまるリスクがある。これは、ある資源(この場合はトークン)への支出が、そのコストが低下しているにもかかわらず、実際には増加してしまう現象である。
この現象は19世紀の経済学者William Stanley Jevons(ウィリアム・スタンレー・ジェボンズ)にちなんで名付けられた。ジェボンズは1865年、Watt steam engine(ワット蒸気機関)によって石炭をより効率的に利用できるようになったにもかかわらず、石炭消費量が急増したことを観察した。
現在、AIでも同じ現象が起きている。米Silicon Data Token Expenditure Indexによると、1トークンあたりの価格は2023年以降90%以上下落した一方、大規模言語モデル(LLM)への支出は2025年半ば以降で2倍になっている。
「トークンが安くなると、企業は支出を減らすのではなく、より多くのAIエージェントを稼働させ、より多くのワークフローを自動化し、より多くのコードを生成する。その結果、インテリジェンスの単価コストが急落しているにもかかわらず、総支出は増加する」と、米Apollo Global ManagementのチーフエコノミストであるTorsten Slok氏は最近のブログ記事に記した。
米Bain & Co.が6月に公表した資料は、Slok氏の主張を裏付けるものとなった。同資料によると、トークンのコストは2024年12月から2025年にかけて半減した一方、企業がAIツールをアップグレードしたことで、消費されたトークン数は同期間に450%増加した。
UberのNaga氏は、トークンへの支出について、量よりも質を重視する方向へ会社の考え方が変化したと指摘した。ただし、Uberが今年初めと比べてコンピューティングリソースを多く使っているのか、少なく使っているのかについては明らかにしなかった。
「これが、企業規模で実用的なAIを活用する未来である」とNaga氏は結論付けた。「次の段階が何と呼ばれるにせよ、最も多くのトークンを使う企業が勝者となるのではない。人々がトークンをいかに効率的に使うかによって特徴付けられる段階になるだろう」
本記事は、雑誌『Fortune』に掲載されたものである。



