メルカリ「やさしいメルカリ」がAIフル活用で成果、なぜ質の低い広告枠に追いやられないのか
メルカリ「やさしいメルカリ」AIフル活用で成果、質の低い広告枠に追いやられない理由

メルカリが配信した動画広告「やさしいメルカリ」は、YouTube Works Awards Japan 2026のBest Use of Google AI部門で「Gold」(最高賞)を受賞した。この広告では、利用者がメルカリでの取引に安心感を得られるようにメッセージを発信。「やさしいメルカリ、メルカリはやさしい」というナレーションをベースに、実際にユーザーから寄せられた「やさしい」エピソードを紹介している。

本キャンペーンでは、キャラクターデザインからシナリオや動画の制作までAIをフル活用しながらも、人々に愛される広告を生み出した。

生成AIで質の低い広告枠に追いやられるリスク

生成AIを使えば、テキスト・静止画・動画といった広告素材を誰でも瞬時に量産できる一方、一歩間違えれば「AI臭い」広告を大量に流し、ブランドを毀損することになりかねない。特に、検索エンジンやSNS、アプリや動画配信プラットフォームなどを配信先とする「運用型広告」では、メディア側のオークションロジックによって、より質の低い広告枠に追いやられてしまう危険性もある。

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「やさしいメルカリ」が高い成果を上げられた理由

そんな中、AIをフル活用して制作した「やさしいメルカリ」が成果を上げられたのはなぜなのか。本記事では、7月29日開かれた「ADJUST IGNITE TOKYO 2026」のセッションから「AIネイティブ時代に僕らは何をすべきか〜メルカリ成長者の思考を解読する〜」の内容を紹介する。

メルカリの成長者(Senior Marketing Manager/AI Marketing Lead)は「『広告素材なんて、とりあえずAIで量産しておけばいい』と思っていませんか?」と問いかける。もちろん、答えはNOだ。

広告出稿に使うツールにもAIで広告素材を量産する機能はある。Googleの「Nano Banana 2」やOpenAIの「ChatGPT Images 2.0」など、専用の画像生成ツールの性能も向上している。それでも1から10までAI任せにするわけにはいかない。誰でも使えるツールを使っていれば、アウトプットが似たり寄ったりになるのは必然である。

「やさしいメルカリ」では、広告の視聴者が好印象を抱いた割合を示す「好意度」が42.1%増加した。コンテンツ作成におけるAI活用の危険性を指摘する声が相次ぐ今、なぜAIをフル活用して制作した「やさしいメルカリ」が高い成果を上げられたのだろうか。その理由の一つとして成長者が挙げたのは「独自の体験データとAIを組み合わせて、差別化を図ること」だった。

月間アクティブユーザー数が2400万人を超えるフリマアプリ「メルカリ」では、日々、出品者と購入者のコミュニケーションが行われている。取引が終わった後には、必ず相互レビューを記入する仕様になっているため、累積で数億単位のレビューデータが蓄積されている。これこそがメルカリ独自の体験データであり、競合他社には決して真似できない独自の強みとなるものだ。

成長者はこのレビューデータをAIで分析・抽出し、AIと編集部を重ねながら、キャラクターデザインやシナリオ制作に落とし込んでいった。

「人間の仕事がAIに置き換わっていく部分は当然あるだろうし、その領域は時がたつにつれ、どんどん広がっていくのでしょう。しかし、だからと言って、悲観する必要はないと思っています。人間がやるべき仕事や生み出せる価値は、まだまだある。むしろ、AIがあることで新しくできるようになったことや、生み出せるようになった価値も、たくさんあると思っています。『人間の仕事にレバレッジをかけるためにAIを使っていく』という発想に切り替えてもらえれば、まだまだやるべきことが見えてくるのではないでしょうか」(成長者)

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「安物買いの銭失い」状態に陥るマーケターの間違い

メルカリではAIの力を最大限引き出すために、相応の労力を割いている。では改めて、人間にとって魅力的な広告素材を作ることが、なぜそれほどまでに重要なのか考えてみたい。

モバイルアプリの計測・分析ツールを提供するAdjustの高松平氏(Sales Lead)は「『CPM(Cost Per Mille:広告が1000回表示されるためにかかる費用)をいかに下げるか』だけを追求して、広告を運用するのは大きな間違いだ」と警告を発する。

その理由は、広告枠を持っているメディア側の視点に立つと分かりやすい。メディアにとっての売り上げは「RPM」(Revenue Per Mille:広告を1000回表示したことで得られる利益)で決まる。原則としてCPMが高くなればRPMも上がることが多いため、メディアとしては「より高い収益をもたらしてくれる広告から優先して良い広告枠を与えよう」と考えるわけだ。つまり、CPMの低い広告は、メディアにとって「おいしくない」こともある。

それなのに、広告費を安く抑えようとCPMを下げることだけを追求すると、一見、コストカットできているように見えて、実はいくら広告費をかけても成果が上がらないいわば「安物買いの銭失い」状態に陥ってしまう。

CPMを上げて良い広告枠を勝ち取るためには、実質的に「CVRやCTRを上げる=クリックやコンバージョンの確率を上げる」しかない(提供:Adjust)。

なぜ「人間にとって」魅力的な広告素材を作るべきなのか

そうならないために、CPMを上げるには、どうすればいいのか。運用型広告のオークションの仕組みを分解していくと「CPM=CPA×CVR×CTR」という公式にたどり着く。

  • CPA(Cost Per Acquisition:1件あたりの獲得コスト)……企業が許容できる予算の上限
  • CVR(Conversion Rate:コンバージョン率)……広告をクリックした人が、問い合わせや資料請求などの最終的な目標に到達する割合
  • CTR(Click Through Rate:クリック率)……広告を見た人がクリックする割合

この3つのいずれかを上げればCPMも上がるわけだが、CPAをマーケティングの現場だけで引き上げるのは、なかなか難しい。そのため、CPMを上げて良い広告枠を勝ち取るためにできるのは、実質的に「CVRやCTRを上げる=クリックやコンバージョンの確率を上げる」しかないと言える。

だからこそ、人間が思わずクリックしたくなる広告素材にする必要がある。さらに、クリックした先の受け皿となるコンテンツも魅力的なものにしなければならないのだ。AIネイティブ時代だからこそ人間がやるべき2つのこととは。