「FDE」という言葉を聞く機会が増えた。Forward Deployed Engineerの略で、「前線配備エンジニア」と訳されることが多い。自社プロダクトの知見を持つエンジニアが、顧客企業の現場に入り込み、課題の発見からシステムの設計・実装までを担う。
もともとはAI基盤を手掛ける米Palantirが確立した職種で、米OpenAIや米AnthropicといったAI開発企業から、AIスタートアップ、大手SIer(システムインテグレーター)までこの体制を取り入れて注目を集めている。日本でも求人が目立つようになった。
背景にあるのは、AIによる「人月商売」への逆風だ。従来のIT業界では、システム開発の費用や工数を、エンジニアの人数と作業時間から算出していた。しかし、AIの性能向上によって作業効率が上がれば、1件あたりに必要な人数も時間も圧縮できるため、人月商売が成り立たなくなる可能性がある。
「人月商売の終焉」と国内SIerの株価回復
2月初旬、Anthropicが自律型AIエージェント「Claude Cowork」の業務プラグインを発表すると、世界のソフトウェア企業やITサービス企業の株式が売られる「アンソロピックショック」が起きた。日本では大手SIer、コンサルティング企業、開発支援会社などの銘柄まで売られた。
それから約7カ月が経過した。日立製作所(以下、日立)の株価は9月28日終値で5518円と、ショック前の水準を上回っている。NEC、富士通の株価も戻りつつある。「人月商売が死ぬ」といわれる中で、なぜ日本の大手SIerは評価を取り戻せているのか。
もちろん、事業内容や外部環境も影響しているだろう。「高性能AIが人間を代換するというのは誇張だった」という一説もある。それに加えて、本稿ではPalantirが掲げるFDEモデルに注目したい。実は、FDEモデルには日本の大手SIerと意外にも複数の共通点があり、「人月商売の終焉」を乗り越える鍵がそこにあると筆者は考える。
大手SIerが掲げる「FDE」は常駐SEの言い換えなのか
人月モデルからの転換を担う存在として各社が掲げたのが、冒頭のFDEモデルである。
日立は、2026年度第1四半期の決算資料で、国内のFDE人材を7月時点の約300人から年度末に約1000人へ、海外は約100人から約350人へ拡大すると明記した。富士通は、9月の投資料向け説明会で6年にわたるPalantirとのパートナーシップでFDEの行動様式を学んだとし、FDEを起点としたビジネス創出によって、2030年度に約1500億円の売り上げを試算していると説明した。
他にも、NTデータグループのフォーティエンスコンサルティング(旧クニエ、東京都世田谷区)は6月に「FDE型コンサルティング」を打ち出し、5年後に100億円規模の売り上げを目指すなど、FDEモデルを打ち出す大企業が相次いでいる。
ただ、この動きには冷めた見方もある。「日本企業がいうFDEは、客先に常駐して開発するSI(システムインテグレーション)やSES(システムエンジニアリングサービス)を単にイマ風に言い換えただけだ」というものだ。
常駐SEとFDEの線引き、そして国内SIerとの共通点
本当にそうだろうか。常駐SEとFDEの線引きを考えてみる。
Palantirのビジネスモデルを分解すると、FDEとそうでない常駐SEを分ける基準は「自社プロダクトの有無」にあるのではないか。
PalantirのFDEが培った知見が、単社カスタマイズだけにとどまらないのは、製品の構造にある。AIプラットフォームを提供する同社の中核サービスは、データ管理と業務アプリケーション開発の基盤「Foundry」、生成AIの基盤「AIP」、それらを顧客の環境に届け続ける配信基盤「Apollo」の3つで構成される。
中でも同社が「プラットフォームの心臓部」と呼ぶのが「オントロジー」で、データ、判断のロジック、実行する業務(アクション)を共通の表現にまとめるものだという。
PalantirのFDEは、顧客ごとにこれらの部品を一から作るのではなく、同社が共通化した土台の上に顧客の業務を載せる。そこで出た顧客の要求を受け、土台の上に作ったシステムは、そのままPalantirの製品を改善させる部品として再利用できるのだ。
これを「自社基盤へ顧客現場の知見を還流させることを前提とした開発人材の提供」という形で抽象化すると、国内大手SIerとの共通点が見いだせる。