神奈川県藤沢市にある多世代共生型賃貸住宅「ノビシロハウス亀井野」では、10代・20代の若者と70代以上の高齢者が世代を超えてゆるやかなつながりを持ちながら暮らしている。現在、入居を待つ人は100人以上に上り、2027年には東京・東久留米で2号棟のオープンも控え、問い合わせが相次いでいる。
なぜ普通の賃貸アパートなのか?
ノビシロハウスは福祉施設でもサービス付き高齢者向け住宅でもなく、一般の賃貸アパートだ。その成り立ちは、不動産仲介の現場で高齢者の部屋探しの難しさに直面したことにある。株式会社ノビシロ代表取締役の鮎川沙代さん(43)は、2011年の東日本大震災を機に九州から上京し、自身の部屋探しで不誠実な対応を受けた経験から「人に喜ばれる不動産屋をやろう」と決意。2012年に不動産仲介会社エドボンドの代表に就いた。
一人ひとりに寄り添う姿勢が評判を呼び、シングルマザーや外国籍の人、DV被害者など、他社では入居審査に通りにくい人たちが口コミで集まるようになった。しかし、高齢者の入居が特に難しい現実に直面し、住宅そのものを設計することで解決を図ったのがノビシロハウスだ。
高齢者が部屋を借りられない本当の理由
「ご紹介できる部屋がありません」――鮎川さんはかつて、高齢者にこう告げざるを得ない経験をした。その背景には孤独死リスクがある。賃貸住宅の大家は高齢者の入居に消極的で、保証人や連帯保証人を求められるケースが多い。しかし、家族のいない単身高齢者は増加の一途をたどっている。
2038年には日本で3人に1人が65歳以上になると推計され、未婚率の上昇と少子化が重なり、頼れる家族のいない単身高齢者は今後さらに増える。年金制度の先行きも不透明で、「老後にどこで、どう暮らすか」は誰にとっても他人事ではない。
共生を成立させるための「ルール」設計
ノビシロハウスでは、高齢者と若者が同居することで家賃が半額になる仕組みを導入している。これにより、経済的な負担が軽減されるだけでなく、世代間の交流が自然に生まれる。鮎川さんは「お茶会で交流を『偶然』ではなく『仕組み』にした」と語る。
具体的には、共用スペースでのお茶会やイベントを定期的に開催し、参加を促す。また、緊急時の連絡体制やルールを事前に決めておくことで、安心して暮らせる環境を整えている。入居者同士のトラブルを防ぐため、契約時にルールを明示し、定期的な話し合いの場を設けている。
「施設に入る以外の選択肢」を当たり前にしたい
鮎川さんは「年を重ねたとき、どこで、誰と、どう暮らすか」という問いを常に考えている。ノビシロハウスは、高齢者が施設に入らずに地域で暮らし続けるための選択肢を提供する。現在、入居待ちが100人を超えていることからも、このニーズの高さがうかがえる。
2027年に東京・東久留米で開業予定の2号棟にも既に多数の問い合わせが寄せられている。ノビシロハウスのモデルは、少子高齢化が進む日本社会において、持続可能な住まいの形として注目を集めている。



