国際エネルギー機関(IEA)で事務局長を務めた田中伸男氏は、アメリカとイランの武力攻撃の応酬が再燃し、ホルムズ海峡の通航が困難になる中、日本が採るべきエネルギー政策について語った。田中氏は、ガソリン補助金を早期に打ち切り、電気自動車(EV)普及へと政策転換すべきだと強調する。
歴史的な供給途絶の規模
今回の石油・天然ガスの供給途絶は、歴史的に見て最大規模だと田中氏は指摘する。1973年の第1次石油ショックと1979年の第2次石油ショックを合わせた石油供給途絶量は日量約1000万バレルだったが、今回はそれをはるかに上回る約1500万バレルに達し、世界の供給量の約2割が止まった。液化天然ガス(LNG)の途絶も供給量の約2割に及ぶ。IEAのファティ・ビロル事務局長は「今回の中東での戦争は、石油市場において歴史上最大の供給困難を招いている」と指摘している。
戦略備蓄放出の規模
IEAは第1次石油ショックを契機に設立され、加盟国に原油の備蓄を義務づけてきた。今回、IEA加盟国は約4億バレルの戦略備蓄を放出し、当面の危機をしのいでいる。この放出規模は、IEA加盟国の官民の備蓄総量約20億バレルの約2割に相当し、2022年のロシアによるウクライナ侵攻時に2度にわたる放出総量の倍に達する。この極めて大規模な放出により、原油価格の高騰はある程度抑制されている。
ガソリン補助金の早期打ち切りを
田中氏は、日本政府が続けるガソリン補助金について「早期に打ち切るべきだ」と断言する。補助金は市場メカニズムを歪め、化石燃料への依存を長期化させる。むしろ、その予算をEV購入補助や充電インフラ整備に振り向けるべきだと主張する。
日本は「エレクトロステート」を目指せ
田中氏は、日本が目指すべき方向性として「エレクトロステート」構想を提唱する。これは、電力部門を中心に脱炭素化とエネルギー安全保障を同時に達成する国家モデルだ。再生可能エネルギーや原子力発電を最大限活用し、EVやヒートポンプで電化を進めることで、石油依存から脱却する。
「日本はエネルギー効率が高い国だが、さらなる電化と再生可能エネルギーの導入で、エネルギー危機を克服できる」と田中氏は語る。具体的には、太陽光や風力の導入拡大、原子力発電の再稼働、水素サプライチェーンの構築などが必要だと指摘する。
長期的な視点での政策転換
田中氏は、短期的な危機対応だけでなく、長期的な視点での政策転換が必要だと強調する。特に、EV普及はガソリン需要を減らすだけでなく、電力需給の調整力としても機能する可能性がある。また、水素やアンモニアの活用、カーボンリサイクル技術の開発も重要だと述べる。
「今回の危機を、日本がエネルギー構造を根本的に変えるチャンスと捉えるべきだ」と田中氏は締めくくった。



