原発建て替えに電力各社は慎重、巨額投資と政府方針に温度差
原発建て替えに電力各社は慎重、巨額投資と政府方針に温度差

政府が2040年代までに2~5基、2050年代までに11~14基の原発建て替え目標を打ち出した一方、電力各社は巨額投資や政策リスクを踏まえ、慎重な姿勢を示している。

政府方針と現場の温度差

高市首相は7月末の原子力関係閣僚会議で「特定地域に依存しないエネルギーの確保は、我が国の成長に不可欠。内閣として原子力政策を前に進めていく」と強調し、数値目標を決定した。政府が8月にまとめた「エネルギー需給構造の強靱化総合パッケージ」にもこの数値を明記し、新増設・建て替えに対し国として「お墨付き」を与えた。

政策転換の背景には、中東情勢の緊迫や円安基調によるエネルギー価格の高騰がある。電力料金の補助終了後の10月以降は負担増が見込まれている。天候に影響を受ける再生可能エネルギーや、地政学リスクで価格が乱高下するLNGを使う火力だけでは、安定して安価に電力を賄い切ることは難しい。

一方、原発は世界でも厳しいとされる規制基準達成のため、テロ対策施設や耐震補強、防潮堤のかさ上げといった安全投資が欠かせず、1基当たり1兆円を超える投資が必要になる。調査開始から稼働までに20年程度を要する上、政策次第で稼働できなくなる恐れもある。

電力各社の慎重姿勢

関西電力は政府方針に先立つ昨年7月、中断していた美浜原発(福井県)の新増設に向けた調査再開を発表した。30年までに可否を判断する。森望社長は9月25日の定例記者会見で「まずは美浜で事業を進められるかを判断していく。他の地点については何も決まったことはない」と述べた。

九州電力の西山勝社長は「将来的に必要だと思うが資材高騰などをみながら判断する」、四国電力の宮本喜弘社長は「具体論として至っていない」と慎重姿勢を示す。

国は建て替えへの公的融資を可能にする改正電気事業法を成立させるなどし、事業の予見可能性を高めることで負担軽減を図っている。東日本大震災後初の新規稼働原発として審査合格が見えてきた島根原発3号機(中国電力)は、収益の9割を国に納める代わりに建設費などの一部を国が支援する「長期脱炭素電源オークション」を活用する。

安全と透明性の課題

9月25日、経済同友会と原子力規制庁の金子修一長官との会合が都内で開かれた。規制庁トップと経済団体が公式会合で意見交換するのは初めてで、金子氏は「きちんとしたプロトコル(決まり)の中で話をすれば、世の中にも受け入れられる状況になってきた」と話した。

一方、中部電力がデータ不正問題に伴い浜岡原発(静岡県)の審査申請を取り下げ、社会の懸念を増幅させた。使用済み核燃料の再処理問題など「バックエンド」への対応も滞っている。

人材不足と育成の取り組み

文部科学省によると、大学や大学院の原子力関連学科・専攻への入学者は1992年に673人だったが、2024年には177人に落ち込んだ。日本原子力産業協会の動向調査では「十分採用できている」と回答した企業は18%にとどまり、8割超が人手不足を感じている。

政府は「原子力人材育成ネットワーク」を通じ大学や産業界の連携を推進し、関西電力は9月14日に近畿大と人材育成の連携協定を結んだ。近畿大では年間約2億円の維持費がかかる研究用原子炉を運営し、全国14の大学・高専から年間150人程度の学生を受け入れている。

人口減少で人手獲得競争が激化する中、信頼回復とともに、技術的なやりがいや産業としての明確な展望を示せるかが問われる。