関西電力と早稲田大学は2025年に締結した包括連携協定に基づき、福井県高浜町やおおい町などで「スマートシェアリングタウン」の実証を始める。エネルギーとモビリティを融合させた持続可能なまちづくりを目指す。
産学連携の経緯
関電の藤野研一代表執行役副社長は、以前から早大の土木、建築、機械、電気など様々な分野の教員と個別に共同研究を行ってきたと説明。一昨年、早大の林泰弘教授から「包括的に一つにまとめてはどうか」と提案を受け、約半年かけて全体像を構築したという。
林教授は2009年に早大に着任以来、関電と共同研究を続け、特に2014年頃からデマンド・レスポンスの仕組みづくりに取り組んできた。2022年12月にカーボンニュートラル社会研究教育センターが発足した際、両者のトップ同士が方針をすり合わせ、大きなビジョンと戦略を共有した。
「関電は東へ、早稲田は西へ」
包括連携協定を結んだ狙いについて、藤野氏は「窓口を一本化する実務的なメリットに加え、『早大と組み、新しい社会実装を進めていく』ことを広く公表するPR効果が大きい」と語る。「『関電は東へ、早稲田は西へ』というキャッチフレーズを作り、社会に対する強力なメッセージとして発信したかった」という。
林教授は「大学側も変わらなければならないという危機感があった」と述べ、社会課題が巨大化・複雑化する中で、一人の教員が専門分野だけで解を導き出せる時代ではないと指摘。モビリティ、電力、行動変容、経済、法律など全ての知見を結集し、チームで取り組む必要性を強調した。
スマートシェアリングタウン構想
森本章倫教授は、限られた資源を分割し、個人や企業の便益を高めながら賢く共有する「スマートシェアリング」の概念を提唱。無駄を省き、持続可能なエコシステムを構築することが最終目的だと説明する。
実証はまず高浜町やおおい町といった比較的小さな自治体から開始。2026年6月には高浜町で関電、早大、福井大学の三者が連携協定を結んだ。エネルギーとモビリティの掛け合わせから着手し、基礎技術を持ち寄って相乗効果を探る。
暮らしのレジリエンス向上
林教授は、高齢者や子どもたちが幸せに暮らせる視点から「暮らしのレジリエンス」を高めることを目指すと述べる。EVを「走る蓄電池」として活用し、必要な時にエネルギーを分け合う仕組みをデジタル技術で構築する。
森本教授はデパートのエスカレーターを例に挙げ、「モビリティやエネルギーもこれと同じだ。社会の中に必要な足や基盤として適正に提供・シェアすることで、社会全体が豊かになり、結果として利益が循環するシステムを目指している」と語る。
原子力と地域の共存
地域には原子力発電所がある。森本教授は「一つのエネルギーソースや特定の企業に強く依存する構造は、社会情勢が変化した際に大きなリスクを抱える」と指摘。多様なエネルギーソースが存在し、それぞれの強みと弱みを補い合う仕組みが必要だと述べ、「原子力発電と共存し続けてきた高浜町だからこそ、新しいエネルギーのあり方を示す出発点として大きな価値を持つ」と語る。
林教授は「カーボンニュートラルの実現とエネルギー安全保障の強化を両立する上で、安定供給を支える脱炭素電源として、原子力発電の重要性は揺るがない」としつつ、安全性の確保を最優先とし、立地地域の理解と協力を得ることが大前提だと強調。原子力発電所を単なる電源ではなく、地域の持続的な発展を支えるまちづくりと一体で位置づける必要があると述べた。
次世代技術の実装
将来的には水素エネルギーの活用やワイヤレス給電の実装も視野に入れる。藤野氏は「原子力発電由来の電力を使ったクリーンな水素を活用する可能性は当然あり得る」と語る。森本教授は技術の社会実装には「技術の進歩」と「社会の受容性」のバランスが重要だとし、政治学や社会学の専門家もプロジェクトに参加し、社会的デザインをセットで提案している。
関西万博で展示されたEVバスのワイヤレス給電について、林教授は「モビリティとエネルギーを一体で考える今後のまちづくりに大きな示唆を与える技術だった」と評価。藤野氏は「万博で実証された様々な先進技術を、まさにこのスマートシェアリングタウンの中で社会実装していく。それが我々の次のチャレンジだ」と意気込みを語った。
「暮らしのエネルギー安全保障」
林教授は、日本のエネルギー自給率が約16%にとどまる現状を踏まえ、「暮らしのエネルギー安全保障」の視点を強調。停電時には蓄電池やEVが電力供給源となり、家庭や地域が電力を賢く使い、蓄え、融通し合うことで外部環境の変化に耐えられる暮らしの基盤をつくると述べた。
森本教授は「市民の側も『足るを知る』という価値観や、空間や資源をシェアして賢く使う行動変容が求められている」と指摘。藤野氏は「電気代が高騰すれば、日本の産業は海外へ流出してしまう」と警鐘を鳴らし、「一企業・一業界の努力だけでは限界がある。国全体で今後のエネルギーのあり方を正面から議論しなければならないフェーズに来ている」と述べた。



