絶滅の恐れがある鳥を守るため、様々な細胞や組織に変化できるiPS細胞を活用する研究が進んでいる。国立環境研究所(茨城県つくば市)のチームは、ヤンバルクイナなど4種の鳥でiPS細胞の作製に成功し、病気の再現や治療法の開発を目指している。
液体窒素で保存、4種で作製成功
同研究所の環境試料タイムカプセル棟では、国内に生息する動植物約130種の絶滅危惧種から採取した培養細胞や組織を、マイナス160度の液体窒素タンクで凍結保存している。
片山雅史・主任研究員らのチームは2016年から研究を開始し、これまでにヤンバルクイナ、ライチョウ、シマフクロウ、ニホンイヌワシの計4種でiPS細胞の作製に成功した。狙いは、iPS細胞を使って希少な鳥の病気を再現し、治療法の開発につなげることだ。
ヤンバルクイナの遺伝子に機能不全
沖縄県北部のやんばる地域に分布するヤンバルクイナは、マングースやノネコによる捕食で2000年代初頭にかけて激減したが、保全活動により生息数は1000羽以上と回復傾向にある。しかし、新たなリスクとして高病原性の鳥インフルエンザが浮上している。
国内では2004年に養鶏場のニワトリで79年ぶりの感染が確認され、沖縄県では2022年に県中部の養鶏場での感染が報告された。ヤンバルクイナはごく限られた地域に生息するため、ウイルスが流入すれば絶滅リスクが一気に高まる。
片山さんらの分析で、ヤンバルクイナでは体内に侵入した鳥インフルエンザウイルスを認識するのに必要な二つの遺伝子のうち、片方が機能を失っていることが判明。このため、ウイルスの増殖を抑えるたんぱく質が作られにくく、重症化する恐れがある。
オルガノイドで病気を再現
希少な鳥にウイルスを感染させて調べる実験はできないため、チームはiPS細胞から「オルガノイド」と呼ばれるミニ臓器を作製。これは元の細胞と同じ遺伝子型を持ち、鳥インフルエンザに弱い特徴を引き継ぐ。
現在、脳のオルガノイドを作製中で、ウイルスに感染させて炎症が起きる仕組みの解明を目指す。ニホンイヌワシでも同様の研究を進めており、鉛中毒の影響を調べる計画だ。
片山さんは「iPS細胞がなければ、希少な動物の感染症や毒物への反応を調べることは困難だろう。研究で得られた知見を生かし、他の鳥も含めて効果的な保全活動につなげていきたい」と話している。
サイでもiPS細胞活用の繁殖研究
大阪大の林克彦教授らの国際研究チームは2022年、アフリカで雌2頭だけが生き残るキタシロサイの皮膚からiPS細胞を作製し、卵子のもとになる細胞に変化させることに成功したと発表した。
この細胞を卵子に変化させ、凍結保存した精子を使って受精卵を作り、近縁種のミナミシロサイの雌を代理母としてキタシロサイの子どもを誕生させる計画だ。



