今年のノーベル化学賞の受賞が7日に決まった東京理科大名誉教授の硤合憲三(そあい・けんそう)さん(76)。最大の功績である「硤合反応(不斉自己触媒反応)」の発見は、日本が世界をリードしてきた不斉合成を核とする「不斉化学」の研究に連なる成果だ。硤合さんの受賞は、日本の「お家芸」に新たな1ページを加えた。
「右と左」を作り分ける
分子には、原子のつながりは同じでも、右手と左手のように鏡映しの関係にある2種類の型を持つものがある。通常は両方がほぼ半々にできるが、必要な一方だけを選んで作る技術が不斉合成だ。
その分野で、硤合さんは1995年、反応でできた分子自身が触媒となり、自分と同じ型を増やす「硤合反応」を発見した。わずかな左右の偏りを、反応を繰り返して大きく「増幅」させた。
医薬品への重要性
なぜ左右を操る必要があるのか。うま味調味料に使われるグルタミン酸は、左右の型で味の感じ方が異なる。医薬品ではさらに重要で、一方は薬として働いても、もう一方は異なる作用を示すことがある。
50年代後半に睡眠薬などとして販売されたサリドマイドはその代表例で、妊婦への投与で胎児に奇形などの深刻な障害をもたらした。必要な型だけを最初から作れば、分離工程を減らし、原料やエネルギーの無駄も抑えられる。効率的な不斉合成は、医薬品などを高純度で作る重要な技術となった。
受け継がれた独創
実は、こうした「分子の右と左」を操る研究は、日本の古くからの得意分野だった。源流の一つは66年。京都大教授だった野崎一さん(故人)と、当時は同大助手で現在は名古屋大特別教授の野依良治さんが、金属触媒で一方の型を多く作る反応を報告した。
その後、野依さんは80年、触媒の基盤となる分子「BINAP」を開発し、高性能な触媒へ発展させ、2001年にノーベル化学賞を受賞した。