ノーベル化学賞の受賞が決まった硤合憲三・東京理科大名誉教授(76)と、野依良治・日本学士院院長(88)、川合真紀・自然科学研究機構長(74)の3者による座談会が8日、都内の東京理科大で開かれた。硤合氏は若い研究者に向けて「研究は何に興味を持つかが大事。どんどん実験に取り組んでほしい」と話し、基礎研究の重要性について語り合った。司会は野依英治・東京本社科学部長が務めた。
受賞決定の心境と研究の意義
硤合氏は「7日の夕方に連絡を受けて、驚いたと同時に喜んだ。7日の晩は記者会見を行い、帰宅したのは日付が変わってからで、あまり寝られなかった」と当時を振り返った。自身の研究については「分子の左手型と右手型の差を『不斉自己触媒反応』で増殖して、ほぼ一方に偏らせるものだ。最初の差がわずかであっても、どんどん反応が進んで、ほぼ一方の型のみになる」と説明した。
また、硤合氏は東京大で向山光昭氏の研究室に入り合成の研究を始めた経緯を紹介。野依氏が当時から不斉合成で優れた業績を上げていたことに触れ、「日本の有機合成のレベルが非常に高いことが背景にあり、今回の評価につながったと思う」と語った。
野依氏、川合氏から見た意義
野依氏は「対称性は宇宙から地球、我々の体内に至るまで、極めて中心的で大きなテーマだ」とし、硤合氏について「わずかに左右が偏った触媒を作り、それを活用して光学的に純粋な物を作った。私の時代と比べて一つ次元の高い、大きな仕事を成し遂げたと言える」と評価した。さらに「今回の受賞決定は日本の科学研究力が健在であることを明確に示した」と述べた。
川合氏は「とても大きな業績だ。物理学では、物質と反物質の小さな差が積み重なり、最終的に宇宙から反物質が消え、物質が残った。これは硤合さんの自己触媒の結果と共通する面がある」と指摘。「有機反応だけではなく、自然界全体に対する、非常に示唆的な研究をされたと思う」と語った。
若い研究者へのメッセージ
日本の研究力低下への処方箋を問われると、硤合氏は「研究とは、基本的に研究者自身が持つ興味に向かって進んでいくものだ」とし、「研究費が多く、実験ができる環境があれば理想的だが、解決は難しい」と述べた。野依氏は「学術研究は好奇心と情熱に導かれるもので、硤合先生はその特質が極めて顕著だと感じる。受賞決定は、未来の科学を担う若者たちに大きな励ましになるのではないか」と話した。
硤合氏は「有機合成化学では、実際に手を動かして実験を行うことが大事だ。早い話、どんどん実験に取り組んでほしい。スポーツの練習と同じだ」と若い世代に呼びかけた。また「研究に思い込みは禁物だが、思い入れは非常に大事だ」とし、大学院時代に読んだ本に「偶然で、ある物質の片方だけが増えることは起こらない」と書いてあったことに触れ、「不斉自己触媒反応はある意味、これを実現したと言っていい。まさかそれができるとは、当時は思っていなかった」と振り返った。
不斉合成の歴史と日本の貢献
分子には左手と右手のように鏡に映した関係にあり、原子の種類や数が同じでも重ね合わせられないものがある。この立体構造の違いを「不斉」と呼ぶ。生物はアミノ酸は左手型、糖は右手型など片方の立体構造だけを利用しており、同じ分子でも左右の違いで薬にも毒にもなり得る。自然界で片方の型だけが増える仕組みは長年の謎だった。
野依氏は1960年代からの研究で独自の金属触媒を開発し、人工での不斉合成を世界で初めて実現。硤合氏が発見した「硤合反応」は、不斉分子が自分自身の触媒となって増殖する反応で、左右にわずかな差があれば多い方の型が圧倒的に増える現象だ。硤合氏の研究は、日本の研究者がこの分野で世界をリードすることを再び示した。