広島県立広島井口高(広島市西区)の生徒たちが、「被爆の臭い」の再現に取り組んでいる。授業の一環として発案し、嗅覚アーティストの上田麻希さん(52)の協力を得た。被爆直後の広島市の街を体験できるVR(仮想現実)と組み合わせ、嗅覚にも働きかけることで、よりリアルに被爆の実相を伝えようとしている。
取り組むのは2、3年の計7人。昨年5月、「総合的な探究」の授業で、VRを使った被爆体験の継承の動きを知り、炎に包まれた街の臭いと映像を合わせれば臨場感を高められると考えた。被爆80年の節目に合わせたプロジェクトとして始まった。
証言映像から臭いを探す
生徒たちはインターネット上の被爆者の証言映像から、「やけどした皮膚の腐敗臭」や「トタンの上で遺体が焼ける臭い」といった発言を探し出し、議論を重ねた。
当初は大阪市の企業に臭いの作成を依頼したが、「被爆者のトラウマを呼び起こす可能性がある。倫理的に問題があるのでは」といった理由で断られた。それでも生徒たちは昨年12月、ネットで見つけた上田さんに依頼した。上田さんは2015年にベルギーで開かれた戦争をテーマにした展示会で、被爆後の広島や長崎の街の臭いを再現した作品を出展していた。生徒たちは川の臭いや土が焦げた臭いなどが必要だと話し合い、腐敗臭を抑えた試作品を作ってもらった。
「一番ぞっとする」「もっと残酷」
今年6月、広島市内で被爆者に試作品を嗅いでもらった。VRゴーグルを着けて映像を見ながら嗅いだ八幡照子さん(89)(府中町)は「原爆の(映像の)中に放り込まれたみたい」と話し、「臭いは一番ぞっとする、忘れられない記憶。視覚と嗅覚が一緒になると、もっと詳しく伝わる」と語った。
一方、韓国籍の朴南珠さん(93)(広島市西区)は、「こんな優しいものじゃない。もっと訳の分からない、火の残酷な臭いだ」と強調した。
プロジェクトリーダーの3年生(17)は「臭いは体験した人にしか分からず、人によっても感じ方が違うと実感した」と話し、八幡さんと朴さんの意見を基に改良を進める考えを示した。その上で「実際のものに近づけたいが、嗅いだ人のトラウマになってはいけないという葛藤もある。どこまで再現するのかが一番の課題」とも語った。
下級生が引き継ぐ
今後は下級生が活動を引き継ぐ。2年生(16)は「先輩たちの思いも背負いながら完成に向けて頑張りたい」と力を込めた。



