福島県では、水素の普及と理解醸成に向けた取り組みが官民で進められている。政府が7月に策定した日本成長戦略に盛り込まれた「水素大動脈構想」の起点となることも追い風に、需要創出や社会実装を目指す。
古民家でFCV給電を実証
福島県中部の三春町には、水素燃料電池車(FCV)からの給電で電力をまかなう古民家「ミライハウス」がある。空き家をトヨタ自動車が借り受け、水素を活用した持続可能な暮らしを実証している。乗用車のFCV「ミライ」や「クラウン」からの給電で、約1週間電気を使った生活が可能だという。
住人はいないが、トヨタや町が水素関連イベントの拠点として活用。夏休み中は子どもたちのにぎやかな声が響く。7月下旬には、水素の魅力を伝える教室やイベントを開く「とびchan.」を招き、重曹などの水溶液を電気分解して取り出した水素でおもちゃのロケットを飛ばす実験が行われた。子どもたちはFCVから古民家への給電の様子を見学し、化学への理解を深めた。
再エネと並行、企業も導入拡大
福島県は、福島第一原発事故を機に原発依存から脱却し脱炭素を目指す方針を掲げ、太陽光発電などの再生可能エネルギーの拡大と並行して水素の普及にも力を入れる。一方、原発事故では建屋内に漏れた水素に引火して被害が深刻化した経緯もあり、水素への理解を深める場の重要性が増している。
三春町立岩江小の6年生(11)は「水素の車で家の電気がついていることにびっくりした。水素についてもっと知りたくなった」と話した。
社会実装を見据えた民間の取り組みも進む。田村市のデンソー福島では、敷地内に水電解装置を設置し、発生した水素を自動車部品の製造工程で活用して二酸化炭素(CO2)削減につなげている。同社の知見を生かし、水素の製造能力を高めた装置が今春、トヨタの本社工場(愛知県豊田市)で稼働を始めた。
浪江町では、ブラザー工業(名古屋市)などが地上約5メートルに設置したパイプラインで低コストに水素を供給する実証を実施。現在は町内の宿泊施設の燃料電池に水素を届けるほか、同社の名古屋市の工場でも柱上パイプラインが活用されている。水素が漏れても上空に拡散するため爆発の危険性が低く、設置コストも地中埋設より大幅に抑えられるという。
県内FCV約500台、水素ステーション拡充へ
水素の普及には大規模な需要創出も欠かせない。県内では約500台のFCVが走っており、人口あたりの台数はトップクラス。多くが乗用車で、決まったルートで大容量の水素補給が必要なトラックやバスは少ないのが現状だ。
そこで県が期待するのが、政府が今夏策定した成長戦略に盛り込まれた、福島~福岡県の幹線道路で水素トラックの導入拡大を目指す「水素大動脈構想」だ。県は現在5か所の定置式水素ステーションを、2030年度までに20か所へ増やす目標を掲げ、政府方針と歩調を合わせて需要創出に取り組む。
県の担当者は「水素は、発電量が天候に左右される風力や太陽光の不安定さを補える主役になり得る。特別ではなく当たり前のエネルギーにしたい」と語った。



