Googleは9月24日(米国時間)、宇宙空間にスケーラブルなAI向けコンピューティング基盤を構築する研究プロジェクト「Project Suncatcher」について、初の軌道上実証実験を実施すると発表した。同社のAIアクセラレータ「Tensor Processing Unit(TPU)」を搭載した試験衛星を低軌道へ送り、宇宙環境での動作を評価する。
試験衛星はSpaceXのロケットで10月1日に打ち上げ
試験衛星はSpaceXのライドシェアミッション「Transporter-18」に搭載され、10月1日にFalcon 9ロケットで打ち上げられる予定である。
Project Suncatcherは、太陽光発電を利用する衛星群にTPUを搭載し、将来的に宇宙で大規模な機械学習処理を行う可能性を探る研究プロジェクトである。Googleが2025年11月に発表した。低軌道ではほぼ継続的に太陽光を利用でき、Googleによると地上と比べて最大8倍の太陽光発電が可能になるという。将来的には複数の衛星を高速通信で接続し、大規模なAIワークロードを分散処理する構想である。
打ち上げ時の振動や宇宙放射線、熱環境を検証
今回の軌道上実証実験では、打ち上げ時の振動や加速度、宇宙放射線、極端な温度環境などがAI用ハードウェアに与える影響を調べる。
低軌道への打ち上げは約10分間で、この間に機体は激しい振動と最大10Gの持続的な加速度にさらされる。TPUチップなど個々の部品には50〜100Gの力がかかる可能性がある。同社は衛星を3軸方向に振動させ、ロケット打ち上げ時に発生する振動を再現する試験を実施し、ハードウェアが負荷に耐えられることを確認したと説明している。
放射線については、カリフォルニア大学デービス校のCrocker Nuclear Laboratoryの陽子ビーム施設で、AI処理を実行中の「Trillium」TPUに陽子線を照射する試験を実施した。初期試験では、5年間の宇宙ミッションで想定される総電離線量を上回る放射線量に耐えられることが示されたという。ただし、実際の宇宙では宇宙線によるビット反転など、地上試験だけでは評価できない現象もあるため、今回の衛星から実測データを収集する。
冷却システムの検証と将来の衛星クラスター構想
もう1つの重要な検証項目が冷却である。TPUは狭い面積で大量の熱を発生させるが、真空の宇宙空間では空気の流れによる放熱ができないため、地上とは異なる冷却手法が必要となる。同社は熱・真空環境を模擬する施設で、熱をヒートパイプで移動させ、ラジエーターから宇宙へ放射する方式を試験してきた。今回、実際の軌道上で冷却システムの性能を検証する。
将来の衛星は1機あたり数十基のTPUを搭載し、複数の衛星でクラスターを構成して地球を周回する構想である。AI処理に必要な通信帯域を確保するため、各衛星は自機の位置と隣接する衛星との相対位置を把握し、レーザーで相互通信する。
Googleによると、既存の衛星間レーザー通信の多くは長距離・低帯域向けに設計されているのに対し、Project Suncatcherでは近距離で非常に高い帯域幅を確保する必要がある。同社は2027年に2基の衛星を軌道へ投入し、この衛星間通信技術などを実証する計画である。