アミノ酸が結合した化合物「ペプチド」による創薬が加速している。天然には存在しないアミノ酸を含む「環状ペプチド」をつくる方法を、東京大の菅裕明教授が開発した。それまでの常識を覆す技術が、新たな治療薬を生み出そうとしている。
ペプチドとは何か、その歴史と利点
ペプチドはアミノ酸が2~100個ほどつながった中分子のことだ。薬として利用され始めたのは100年以上前。1922年には、動物の膵臓からつくったインスリンがカナダの少年に使われた。
それ以降、化学合成や遺伝子組み換えによって種類が増えていった。「やせ薬」として、適応外の使用が問題視されている糖尿病治療薬のマンジャロ(一般名・チルゼパチド)もペプチドだ。
東京科学大の玉村啓和教授は「ペプチドは必要な時に必要な場所で働く。役目を終えれば分解されやすく、毒性も比較的少ない」と説明する。
製薬の主流ではなかった理由
メリットは多いが、製薬の主流ではなかった。例えば、ペプチドよりも分子量の少ない薬は、細胞内に届きやすい。製造も容易で、安い。だが、体内の狙った場所以外に副作用を起こすこともある。
100個程度以上のアミノ酸が結合した高分子の薬もある。急速に研究開発が広がっている抗体医薬は、標的に正確に作用するが、製造が難しく、高価になる。
中間に位置するペプチドは、両者のいいとこ取りができると期待されてきたが、優れた化合物を見つける方法が十分になかったという。
天然応用から探索へ、常識を覆す手法
多くのペプチドの薬は、動物が持つホルモンなど天然に存在するペプチドを出発点に、改良してつくられてきた。玉村さんも、カブトガニが細菌やウイルスから身を守るために持っている「生体防御ペプチド」に着目して研究してきた。改良を重ね、CXCR4という白血球の動きに関わるたんぱく質を標的とするペプチドを完成させた。多発性骨髄腫患者の治療の中で使われる薬として米国で承認されている。
天然にあるアミノ酸配列をもとに薬を開発する方法が主流となっていた時代、菅さんは「めちゃくちゃたくさん作って探そう」と考えた。それまでのペプチド研究は「天然の応用」が中心だったが、菅さんは「1兆通りの探索」へと発想を転換した。この手法により、天然には存在しないアミノ酸を含む環状ペプチドを大量に作製し、優れた化合物を効率的に見つけ出すことが可能になった。



