アットマークテクノは9月10日、IoT機器向けLinux OS「Armadillo Base OS(ABOS)」を、ルネサス エレクトロニクスの64ビット汎用MPU「RZ/G3L」および「RZ/G3SE」へ対応させ、無償評価版の提供を開始した。
ルネサスのMPUが備えるハードウェアセキュリティ機能と、ABOSのコンテナ、SBOM、ソフトウェア更新機能を組み合わせ、産業機器やIoT機器に求められるセキュリティ要件への対応を支援する。商用版は2027年から提供する予定である。
CRAやJC-STARを見据えたIoT機器開発を支援
ネットワークへ接続するIoT機器では、開発時のセキュリティ対策だけでなく、出荷後に新たな脆弱性が見つかった場合の影響把握や、ソフトウェア更新を継続する体制が求められている。
欧州ではEUサイバーレジリエンス法(CRA)への対応が必要となるほか、日本でもIoT製品のセキュリティ機能を評価・可視化する「JC-STAR」が整備されている。
機器メーカーには、セキュアブートやデータ暗号化、物理的な改ざんへの対策に加え、搭載するソフトウェアをSBOMとして管理し、脆弱性の影響範囲を特定できる仕組みが必要となる。また、製品の提供後もセキュリティ更新を継続し、問題発生時に対応する運用体制を確保する必要がある。
アットマークテクノは、こうした機能をABOSへ組み込んで提供することで、機器メーカーによるセキュリティ機能の個別開発を減らし、製品独自のアプリケーション開発へ注力できるようにする。
コンテナでOSとアプリケーションを分離
ABOSは、IoT機器のセキュリティ確保と長期運用に向けて設計されたLinuxベースのOSである。
Docker互換コンテナを採用し、OSと機器メーカーが開発するアプリケーションを分離する。OSのセキュリティ更新を実施した場合もアプリケーションへの影響を抑えられるほか、コンテナごとにアクセスを制限することで、問題が発生した場合の影響範囲を限定できる。
OSとアプリケーションの開発責任も分けやすくなり、アットマークテクノがOSの更新と保守を担い、機器メーカーは製品固有の機能開発へ集中できるようにする。
ABOS自体は、攻撃に利用される可能性のある機能やソフトウェアを抑え、アタックサーフェスを小さくする設計を採用。毎月のアップデートを提供し、IoT機器の長期運用を支援する。
SBOMの生成と脆弱性検証に対応
ABOSの開発環境は、機器に搭載するソフトウェアの構成を示すSBOMの自動生成に対応する。
IoT機器では、Linuxやオープンソースソフトウェアを含む多数のソフトウェア部品が利用される。新たな脆弱性が公表された場合、機器メーカーは対象となるソフトウェアが自社製品に含まれているかを確認し、必要に応じて修正しなければならない。
SBOMによって使用部品やバージョンを管理することで、新たな脆弱性が製品へ与える影響を把握しやすくする。ABOSは脆弱性の確認機能も備え、CRAやJC-STARなどのセキュリティ要件への対応を支援する。
Armadillo Twinとの連携で安全なOTAを実現
ABOSは、IoT機器の運用管理サービス「Armadillo Twin」と連携し、フィールドに設置した機器の遠隔監視とソフトウェア更新に対応する。
管理者はIoT機器の死活状態や稼働状況を確認し、リモートコマンドを実行できる。複数拠点に設置した機器へソフトウェア更新を一括配信するOTAにも対応する。
更新したソフトウェアが正常に起動しなかった場合には、更新前の状態へ自動的に戻す二面化ロールバック機能を利用できる。遠隔地にある機器がアップデートの失敗によって停止し、現地での復旧作業が必要になるリスクを抑える。
産業機器やIoTゲートウェイは長期間使用されるほか、容易に現地へ赴けない場所へ設置される場合もある。SBOMで脆弱性の影響を確認し、必要な更新をOTAで適用することで、製品ライフサイクルを通じたセキュリティ維持を支援する。
RZ/G3LとRZ/G3SEのセキュリティ機能を活用
ABOSが新たに対応したRZ/G3LとRZ/G3SEは、産業用HMIからIoTエッジ機器までを対象とするルネサスの64ビット汎用MPUである。
両製品は、最大1.2GHzで動作するArm Cortex-A55を最大4コアと、200MHz動作のCortex-M33を搭載する。セキュリティ機能としてRenesas Secure IP、Secure Boot、Arm TrustZone、タンパ検出などを備える。
ABOSと組み合わせることで、正規のソフトウェアだけを起動するセキュアブートや、処理領域の分離といったMPU側の機能を、OSやアプリケーションの運用まで含めたセキュリティ対策へつなげる。
RZ/G3Lは3Dグラフィックス対応GPUとH.264ビデオコーデックを搭載し、高度な表示が求められる産業用HMIや医療用HMIなどに対応する。RZ/G3SEはシンプルな表示を行うEV充電器や産業用ゲートウェイなどを想定する。
両製品はピン互換で、ディープスタンバイ時の消費電力を1mWクラスまで抑えられるほか、PCIeやTSN対応ギガビットEthernetを搭載している。共通基板を活用しながら、表示機能や処理性能が異なるIoT製品を展開できる。
2027年から商用版を提供予定
無償評価版のABOSは、RZ/G3Lを搭載した評価ボード向けに提供する。RZ/G3SEについても、上位製品となるRZ/G3Lの評価ボードを用いて評価できる。
アットマークテクノは、2027年からRZ/G3LおよびRZ/G3SE対応ABOSの商用版を提供する予定である。
今後はルネサス製MPUを足掛かりとして、ほかの主要半導体メーカーが提供する産業機器向けMPUや、それらを搭載したシステムオンモジュール(SoM)へABOSの対応範囲を広げる。
IoT機器に対するセキュリティ規制が強化される中、機器メーカーがハードウェア、OS、アプリケーション、運用管理を個別に組み合わせ、長期的な更新体制まで構築する負担は増している。
アットマークテクノは、MPUのハードウェアセキュリティとABOS、Armadillo Twinを組み合わせ、設計から出荷後の監視、脆弱性対応、OTAまでを一体で支援することで、セキュアな産業機器やIoT機器の開発期間短縮につなげていくとしている。



