欧州で人工知能(AI)や半導体などの先端技術を窃取しようとする中国の動きが活発化している。英国の情報機関国家保安部(MI5)は「安全保障に対する脅威だ」と警告する異例の声明を出した。米国が厳格な技術流出防止策を講じる中、中国が規制の緩い欧州を標的にしている可能性がある。
MI5が研究者への資金提供を発表
MI5は9月30日の声明で、英国関連の研究者100人以上が中国の学術機関「中国通用技術研究院」からの資金提供を受けていたと発表した。研究者はAIや秘密通信、サイバーセキュリティーなどの研究に携わっていた。
学術機関は中国情報機関の国家安全部と強いつながりがあるといい、英紙ガーディアンは「研究成果が学術機関経由で中国に流出したとみられる」と伝えている。MI5は英研究者らが危険性を十分理解していなかったと認めた上で、「自覚のないまま中国のスパイ活動に加担した恐れがある」と指摘。国内の大学などには、学術機関との共同研究の見直しを勧告した。これに対し、中国側は「全く根拠のないでっち上げだ」と抗議している。
欧州各国で拘束相次ぐ
独連邦検察庁も5月、軍事応用可能な研究情報を集めようとしたとして、中国情報機関に所属する中国系ドイツ人夫婦を拘束した。夫婦は自動車メーカー従業員などを装い、AIや航空宇宙分野の独研究者たちに近づいたという。
ロイター通信によると、ベルギー検察当局も9月、半導体製造に関する技術情報を中国に不正流出させた疑いがあるとして、ベルギーと中国の二重国籍を持つ50歳代の男を拘束したと発表した。
欧州の対応は限定的
中国はこれまで米国を最大の標的としてきた。2020年に当時の米連邦捜査局(FBI)長官は捜査中の技術窃取事件が約1000件に上り、「防衛関連だけでなく、トウモロコシの種から医療機器まであらゆる製造企業が標的になっている」と説明した。米国は、技術輸出管理や中国人研究者の入国制限などの厳しい措置を敷いた。
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会も23年に経済安全保障戦略を公表し、中国を念頭に先端技術の流出防止に力を入れる考えを打ち出している。ただ、現状の対応は先端技術のEU域外への漏えいリスク評価などが中心で、実効性は伴っていない。
国レベルで独自に強制力のある規制を講じるのは、半導体装置の輸出規制を定めるオランダなど一部にとどまる。欧州外交筋は「欧州が本格的に狙われている可能性がある。AIなどの重要性が増す中で、欧州も対応が急務だ」と指摘した。