認知症リスクを「声」で発見、墨田区が全国初導入のアプリ実証実験
認知症リスクを「声」で発見、墨田区が全国初導入

東京都墨田区は、スマートフォンに話しかけた声をAI(人工知能)が解析し、認知機能の低下の兆候を捉える実証実験を進めている。日々の出来事を声で記録したり、定期的な測定を受けたりすることで、脳の健康状態を手軽に確認できる仕組みだ。認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)を早期に把握し、予防につなげる狙いがある。

声で記録する「声日記」とAI測定

「はなしてね」は、東京大学発のAI開発スタートアップ企業「IGSA」が開発した。「声日記」「測定」「声アクション」などの機能があり、利用することで認知症予防につながるとされる。

「声日記」は、毎日の出来事を声で記録でき、思い出す力や話す力を維持するのに役立つ。3か月に1度行う「測定」は、スマホに話しかけると、AIが話す速度やリズム、語彙、文法などの特徴を解析し、言語や記憶、集中力に関する機能を評価する。

「声アクション」は測定結果を基に、苦手な分野を鍛える機能だ。「昔話を話してみましょう」といった質問に答えることで記憶機能などが強化できるという。

利用者の声と導入状況

約半年間、毎日使ってきた墨田区の佐藤守信さん(79)は「一人暮らしで、人と話す機会も少ない。その日のうれしかったことを思い出しながら、楽しい気持ちで続けられている」と話す。

「はなしてね」は昨年9月に正式版の運用が始まった。墨田区は全国に先駆けて導入し、区民に無料で活用してもらい、効果を検証する方針だ。先月30日時点で計259人が利用登録している。

MCIの早期発見と心理的負担の軽減

国立長寿医療研究センターによると、MCIは健常な状態と認知症の中間に位置し、1年間で5~15%の人が認知症になる一方、16~41%の人は健常な状態に戻るとされる。早期に気づき、生活習慣の改善など適切な対策を取ることで、認知機能の維持や改善が期待できる。

ただ、認知機能の低下を調べる検査に対し、心理的な抵抗感を持つ人もいる。「自分はまだ大丈夫」と考えたり、簡単な計算や記憶力を問う問題を間違えたりして傷つくこともあるからだ。一方、「はなしてね」は、回答そのものに正解や不正解はないため、利用者が負担を感じにくい。

開発にあたりIGSAは、臨床データの収集や解析などを都健康長寿医療センター研究所と共同研究したほか、試作品の改善につなげる検証を千葉大予防医学センターと進めた。大学との橋渡しや費用面の支援は、区の産業共創施設「SUMIDA INNOVATION CORE(スミダ イノベーション コア)」が担った。

区高齢者福祉課の田部谷友基主査は「区の既存事業との連携を深め、アプリ利用者を区の介護予防教室につなげるような取り組みを強化していきたい」と話す。IGSAの松島創一郎代表(29)は「墨田で始まった先進的な介護予防事業として、全国に広げていきたい」と話している。

国や都の早期発見への取り組み

認知症を早期発見する取り組みは、国なども力を入れている。国は2019年9月末までに「認知症初期集中支援チーム」を全国の市町村に設置。主に認知症が疑われる40歳以上を対象に、看護師らが定期的に自宅を訪ね、受診や介護サービスの利用を勧めるなどしている。

都も25年に策定した認知症施策推進計画で、「早期診断・早期支援、治療・ケア(介護)の充実」を掲げた。区市町村による認知機能検査にかかる経費補助を進めており、昨年度は都内34自治体で、対象者が自己負担なしで簡単に軽度認知障害を判定できる「サポート検診事業」を実施した。