山下泰裕「無我夢中で一本の宣告」ロス五輪決勝を回想
山下泰裕「無我夢中で一本の宣告」ロス五輪決勝

ロサンゼルス五輪柔道無差別級決勝で、山下泰裕さんはエジプトのモハメド・ラシュワン選手と対戦した。山下さんは「無我の境地と言っていいほど集中していて、細部を記憶していない」と振り返る。

横四方固めの抑え込みに入った後も、「絶対に離すものかとの思いだけで、時間の意識が飛んでいた」という。どこかで「一本」の宣告が聞こえ、優勝の瞬間も無我夢中で大歓声も聞こえていなかった。ガッツポーズなどしたことのなかった山下さんだが、この時は「やった!」と畳を叩いた。後からビデオを見ると、どうもラシュワン選手を叩いていたようだ。立ち上がって上を仰ぎ、「これまでに感じたことのない、万感の思いがこみあげてきた」と語る。

ラシュワン選手の戦略とフェアプレー

ラシュワン選手を指導した山本信明先生は、五輪後に山下さんに明かした。山下さんがけがをした後、ラシュワン選手の情が移らないようにと控室を別々にしたこと。畳に上がる前には「最初の1分間は攻めるな」と持久戦を指示していたこと。助言は極めて的確で、もしそういう戦い方をされたら勝敗は分からなかったが、ラシュワン選手は待たなかった。山下さんは「勝ち急いだのかもしれない。柔道は心と心の戦い。ちょっとした気持ちの変化が流れを変える」と述べる。

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ラシュワン選手はユネスコ国際フェアプレー賞を受賞した。しかし、それはけがをした山下さんの右足を「狙わなかったから」ではない。変な情けをかけることなく、ラシュワン選手は最初に右足を狙いフェイントをかけた。ただ、けがをした足だから攻めるという意識ではなく、真っ向から自分の柔道をぶつけてきた。だからフェアプレーにふさわしいと山下さんは語る。

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