東大阪市は、布施警察署および三井住友海上火災保険とともに、「自転車通勤リスクと企業の実務対応~自転車の交通ルールと企業のリスク対策~」セミナーを実施した。2026年4月に施行された道路交通法改正の内容や企業が整備すべき自転車通勤のルール、就業規則の見直しのポイントなどを具体的に解説した。
改正道路交通法と自転車の青切符制度
4月に施行された改正道路交通法では、自転車の交通違反に対して交通反則通告制度(いわゆる青切符)が導入されるなど、自転車の危険な運転に新しく反則金が整備された。一部の交通ルールを守らない自転車利用者への苦情などが増加する中、自転車関連事故の構成比も増加しており、従業員の自転車通勤を認めている企業に対しても、適切な管理体制が求められるようになっている。
セミナー冒頭では、東大阪市土木部道路管理室の菊地室長が主催者を代表して登壇。改正道路交通法の施行を踏まえ、自転車利用者だけでなく企業にも対応が求められるとしたうえで、本セミナーが「安全対策の見直しや今後の取り組みの一助になれば」とあいさつした。
一方、本セミナーを共催する三井住友海上火災保険理事大阪南支店長の谷口健一氏は、近年増加する自転車事故について、「賠償額もかなり高額になってきている」と保険会社の立場からリスクを説明。自転車通勤を認める企業では今後の体制整備が重要になるとして、「まずは自社の状況をしっかり考えていただき、必要であれば私どももアドバイスしていきたい」と呼びかけた。
自転車ルールの再確認と事故防止
最初のテーマ「2026年4月 改正道路交通法の内容について」は、大阪府布施警察署交通課交通総務係警部補の種村文宏氏が解説した。種村氏はまず、自転車が関わる事故は交通事故全体が減少する中でも横ばいから微増で推移しており、その約8割で自転車側に何らかの違反が認められている現状を紹介。その対策として、交通違反や事故の減少を目的に、今年4月から16歳以上を対象とした自転車の青切符制度が導入されたと説明した。
一方で、「新たな交通ルールができたわけではない」とし、従来は赤切符の対象だった違反の一部について、反則金を納付することで手続きが終了する青切符制度へ変更された点が大きなポイントだと解説。自転車には点数制度はないものの、重大な違反では運転免許の停止処分につながる場合もあると注意を促した。
また、対象となる違反は113種類に及び、反則金が最も高額なのは「携帯電話使用等(保持)」の1万2,000円。「それだけ携帯電話を利用しながら運転する行為が危険だと判断されている」と、その理由を説明した。
続いて、企業が従業員に周知すべきポイントとして「自転車安全利用五則」を紹介。「【1】車道が原則、左側通行」「【2】交差点では信号と一時停止を守る」「【3】夜間はライトを点灯」「【4】飲酒運転は禁止」「【5】ヘルメット着用」の5項目について解説し、特に一時停止や夜間のライト点灯、飲酒運転の禁止は従業員への指導をお願いしたいと呼びかけた。
ヘルメットについては、「大阪は2年連続で着用率が全国ワースト」と現状を紹介。「努力義務ではあるが、自分の命を守るためにも、ヘルメットをかぶることが当たり前の世の中にしていきたい」と協力を求めた。
講演の最後には、「自転車は自動車や原動機付自転車と同じ車両であることを意識してほしい」と改めて強調。「自転車安全利用五則を守り、今回の法改正をきっかけにヘルメット着用が当たり前の社会になってほしい」と期待を寄せた。
東大阪市の事故傾向と賠償事例
続く「東大阪市事故傾向や賠償事例について」は、三井住友海上火災保険関西損害サポート第一部大阪第四保険金お支払センターアシスタントマネージャーの古賀良平氏が解説した。古賀氏は、東大阪市では対自転車事故の約65%が交差点付近で発生していることを紹介。一時停止のある交差点だけでなく、信号や標識のない交差点でも同程度の事故が起きているとし、「自分だけは大丈夫という思い込みが最も危険」と警鐘を鳴らした。
事故を防ぐためのポイントとして、「一時停止の確実な実施」、「死角の把握とミラーの活用」、そして「かもしれない運転の徹底」といった3点を挙げる。「歩行者が飛び出してくるかもしれない、相手が気づいていないかもしれないという意識が事故防止につながる」と説明した。
また、自転車事故では被害者だけでなく加害者になるケースもあり、死亡事故では約1億円の賠償が命じられた事例もあることを紹介。「万が一に備え、個人賠償保険には必ず加入することをおすすめします」と呼びかけた。
さらに、東大阪市は通勤・通学時の自転車利用率が全国2位であることから、「事故が発生しやすい場所や道路の特徴を知り、かもしれない運転を意識することが重要」と指摘。「交通事故ゼロの社会には、一人ひとりがルールを守り、思いやりを持って行動することが不可欠」と語った。
企業の自転車通勤管理とリスク対策
最後の講演となる「自転車通勤制度を導入する場合のリスクと社内管理体制について」は、三井住友海上火災保険MS&AD経営サポートセンター経営リスクアドバイザーで、社会保険労務士および運行管理者(貨物)の資格を持つ山下賢二氏が担当。自転車通勤制度を導入する際の企業のリスク管理について解説した。
山下氏は、通勤中の事故は原則として会社の使用者責任が認められにくい一方、業務との関連性が認められる場合には責任を問われる可能性もあると説明。そのため、「従業員が安全に自転車通勤できる環境を整えつつ、会社としてのルールを明確にすることが重要」と語った。
また、今回の法改正を機に、自転車通勤を認めるかどうかも含めて制度を見直すべきだとし、申請・許可制の導入や、安全基準、事故発生時の対応、法令遵守、保険加入などを規程として明文化する必要性を解説。特に、自転車損害賠償責任保険への加入については、「保険金額は最低でも1億円以上を目安にしてほしい」とアドバイスした。
さらに、飲酒運転やながら運転、イヤホンの使用などを禁止事項として規程に盛り込むほか、自転車通勤中の事故による企業イメージの低下も踏まえ、懲戒処分の考え方についても紹介。「自転車通勤管理規程」を整備することで、従業員と会社の双方を守ることにつながると説明した。
あわせて、通勤中の事故は一定の条件を満たせば労災保険の「通勤災害」の対象となることにも触れ、「自転車通勤の利便性と、リスクのバランスを意識しながら、制度・規程・教育の3つのポイントで、適切に運用する」とまとめた。
今後の啓発活動への期待
セミナー終了後、東大阪市土木部道路管理室安全調整課主査の耶雲理仁氏は、「これまで、市民向けや小・中学生を対象とした自転車の交通安全教育に関する取り組みを行われてきたが、大人への啓発には課題がありました」と振り返る。東大阪市は、中小企業が多く、自転車通勤者も多い地域特性を踏まえ、「企業向けの啓発が必要」と考え、包括連携協定を結ぶ三井住友海上火災保険へ相談したことが、今回のセミナー開催につながったという。
三井住友海上火災保険大阪南支店大阪中央支社の梅川陽向氏も、「法改正の周知と自転車事故の防止に向け、保険会社として何ができるかを考え、東大阪商工会議所にも協力いただき企画しました」と開催の経緯を説明した。
今回のセミナーを踏まえ、耶雲氏は「自転車も車の仲間であることを意識してほしい」と改めて強調。「少し意識するだけでも交通事故は減らせると思います。自分も加害者になり得るという意識を持って、安全運転を心がけてほしい」と呼びかけた。
また、梅川氏は「従業員一人ひとりが交通ルールやマナーを守ることが、会社を守ることにもつながります」とコメント。耶雲氏も「セミナーやニュースで知ったことを会社や家庭で話題にしていただき、交通安全の意識を少しずつ広げてほしい」と期待を寄せた。
最後に梅川氏は、「東大阪市と連携しながら、今後も交通ルールの普及や交通安全につながる取り組みを続けていきたい」と締めくくった。



