東京電力柏崎刈羽原子力発電所6号機が今年1月、約14年ぶりに再稼働し、安定的な運転が続いている。しかし、重大事故が発生した際の避難対策や不祥事が相次ぐ東電の組織改革など、課題は山積している。電力の安定供給と安全性、県民からの信頼回復をどのように両立していくのか。福島第一原発事故後に東電が初めて再稼働させた柏崎刈羽原発の今を検証する。
避難路工事、着手は2か所のみ
柏崎刈羽原発から南に約500メートル離れた国道352号の交差点。道路脇には「避難路整備」と書かれた看板が立っている。草木や土砂が取り除かれ、周囲はロープで囲われている。原発で事故が起きた際、周辺住民がスムーズに避難するための避難路の工事現場だ。
工事は今春に始まった。上越市方面に向かう車が直角に左折する必要がないよう、交差点を緩やかな左カーブを描くように改良するのが目的だ。県は、既存道路をより通行しやすくするため、原発周辺から新潟市や上越市方面など6方向に延びる幹線道路を整備している。1000億円超と見込まれる整備費用は、全額国の負担だ。
整備内容は主に、▽道路の改良▽橋の耐震性強化▽土砂災害などに備えたのり面対策▽除排雪体制の強化――の四つだ。整備対象の88か所のうち、今年6月下旬時点で86か所が「調査・設計」の段階で、実際に工事に着手したのは2か所にとどまる。
幹線道路に加え、国は幹線道路に至る小規模道路の整備も後押しする。「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法」の対象範囲が昨年拡大され、柏崎、長岡、上越、出雲崎、刈羽の5市町村に加え、小千谷、見附、燕、十日町の4市が追加された。
住民が懸念する複合災害
避難路の整備は、他の原発周辺地域でも講じられているが、県幹部は「確実に避難するための取り組みは、新潟が全国に先駆けている」と強調する。
2011年の福島第一原発事故を受け、原子力防災は「原発事故は起こりうる」との前提に変わった。避難路整備の見通しが示されたとはいえ、原発周辺の住民は、確実かつ迅速な整備を求めている。
柏崎刈羽原発から約2・5キロの場所に住む柏崎市宮川町内会長の小池昭一さん(72)は、事故と自然災害が重なる「複合災害」を懸念する。原発事故が起きれば、海沿いの道や高速道路などを通って県最北部の村上市まで逃げることになっている。しかし、避難ルートは長距離であることに加え、大雪で道幅が狭まったり地震で通行できなくなったりすれば、避難に支障が出る恐れもある。
小池さんは「福島の事故前に比べれば、原発の安全性はかなり向上した」とする一方、「地震や津波、他国からの武力攻撃といったリスクは拭えない。避難路の整備は必ず完遂してほしい」と語気を強める。
ハード面以外の対策も重要
避難路の整備について、長岡技術科学大学の大場恭子准教授(原子力社会工学)は「通行量を確保できる大きな道路は、避難の際に有用だ」と評価する。ただ、確実な避難の実現にはハード面以外の対策も重要だと指摘する。
その一つが、原発事故や避難計画に対する住民の理解だ。大場准教授は「原発事故による被害の総量を小さくするために『自分がどう動くべきか』を把握することは、混乱を避け、するべき避難を確実にするために重要だ」と強調する。自治体などが実施する原発事故を想定した訓練に加え、通常の防災訓練に原発事故の対応も組み込み、学校でも避難について考える機会を設けることも効果的だ。
大場准教授は「防災を考える様々な場面に、原子力災害というテーマが少しずつ加わるといい」と提言する。



