熱海署は、2021年7月の熱海市伊豆山土石流災害で当時の署員約90人の体験談をまとめた内部冊子「伊豆山」を活用し、若手警察官への教訓継承に取り組んでいる。発災から5年が経過し、当時を知る現役署員は全体の1割未満に減少。冊子には、遺族対応や遺失物管理などに当たった警察官らの「生の声」が100ページ超にわたって赤裸々に記録されている。
体験談の記録
6月下旬、熱海署で20~30歳代の署員5人に対して行われた教養講習。井上和孝副署長は冊子「伊豆山」を手に「28人の尊い命が失われました。市の治安を守る職員として忘れてはいけません」と語りかけた。
冊子に記録された体験談の中で、遺族対応をした刑事課員の一人は「遺族の心の傷を癒やすことが到底出来ない自分に無力さを感じた」と回顧。その上で「無念を少しでも晴らしたい」と気持ちを新たにしたと証言している。
また、現場で見つかった写真や貴重品などの遺失物を管理した会計課の行政職員は、泥を払いできる限りきれいな状態で持ち主に返すよう努めた経験を紹介。「被災者が『見つかって良かった』とほほえむ姿を見て、熱いものがこみ上げてきた」と述べた。
若手への継承
講習を受けた同署地域課の岡田成巡査長(25)は「発災時には避難誘導をしっかりしたい」と決意を新たに。行政職員の勝亦麻結さん(20)も「(災害時に)記録することの大切さを知った」と話した。
井上副署長は「これから現場を支える若手を中心に、災害時の対応について知ってもらい、引き継いでいきたい」と語る。
冊子作成の経緯
土石流災害では多くの警察官が避難誘導や救助活動、行方不明者の捜索に従事。現場は霧で視界が悪く、被害規模もつかめなかった。多くの署員が寝る間を惜しんで活動したという。
発災から1年余りが経過した2022年夏頃、署の朝会で発災時に対応した署員が毎日1人ずつ3分間スピーチを始めた。異動で当時を知る署員が減少していたためだ。中には目を赤くして体験を振り返る署員もおり、当時の本間章浩署長が「彼らの経験や思いの足跡を後世に伝えたほうがいい」と考え、安本剛洋副署長(当時)に記録化を指示した。
安本副署長は、過去の災害記録が時間経過とともに犠牲者数などの事実関係のみに要約されて引き継がれた事例を知っていた。そこに「生々しい感情」や「具体的な業務内容」の記録はなかった。「熱海土石流災害は、そうはならないようにしたかった」と述べている。東日本大震災時に福島県警が警察官の証言を冊子化した事例も参考に、半年かけて製本。外部には公開せず、内部向けとすることで、発災当時の署員約90人の経験や感情が赤裸々に記されている。



