西日本豪雨ダム訴訟、国と自治体の責任認めず…松山地裁が遺族の請求棄却
2018年の西日本豪雨で愛媛県内のダム緊急放流後に下流域で甚大な被害が発生した損害賠償訴訟において、松山地裁は18日、国と自治体の責任を認めず、犠牲者の遺族ら31人の請求を棄却しました。判決は、ダムの操作規則や避難指示に不合理な点はないと判断し、原告側の主張を退けました。
訴訟の経緯と判決の概要
この訴訟は、2018年7月7日早朝に愛媛県の肱川にある野村ダム(西予市)と鹿野川ダム(大洲市)で実施された緊急放流後、下流で氾濫が発生し、8人が死亡、3500棟以上が浸水した被害をめぐるものです。遺族らは、ダムを管理する国と避難指示を出した西予市・大洲市に対し、約5億3800万円の損害賠償を求めていました。
松山地裁の古市文孝裁判長は、判決で以下の点を指摘しました。まず、ダムの操作規則については、中小規模の洪水で被害を軽減する効果があり、改正を求める声が高まっていなかったとし、原告側の「事前放流量を増やせば緊急放流を避けられた」という主張を退けました。判決は、「ダムの規模を超える雨量を予測するのは難しく、規則を逸脱すべき特段の事情はなかった」と結論付けています。
避難指示に関する判断
避難指示に関しては、両ダムが自治体への情報伝達で必要な措置を取っていたと認定。両市から住民への避難指示についても、「事後的に見ればやや遅いとの非難は免れないが、裁量権の逸脱や乱用があったとは言えない」と判断しました。これにより、国と自治体の責任を否定する形となりました。
西日本豪雨の被害と事前放流の広がり
西日本豪雨は、2018年7月6日から8日にかけて11府県で大雨特別警報が発表され、土砂災害や河川の氾濫が相次いだ大規模災害です。読売新聞のまとめでは、関連死を含めて300人以上が死亡し、広島、岡山、愛媛の3県で3万8820棟の住宅が被害を受けました。仮設住宅は2024年に完全に解消されています。
この災害を機に、大雨に備えてダムの水を前もって下流に放出する「事前放流」が広がりました。国土交通省は2020年4月にガイドラインを作成し、実施体制を整備。2021年5月までに国管理の1級水系と都道府県管理の2級水系で必要な体制が整ったとされています。事前放流の実施件数は、2020年度で延べ122か所、2023・24年度には180か所を超えています。
京都大学の中北英一名誉教授(水文気象学)は、「地球温暖化の影響で国内の総雨量が15%程度増えており、雨の降り方が激しくなる中で、事前放流の役割は大きくなっている」と指摘しています。
原告側の反応と今後の展開
判決後、原告側は松山市内で記者会見を開き、控訴する意向を示しました。夫を亡くした西予市の入江須美さん(58)は、「情報の周知に問題があると言い続けてきたが、主張が伝わらずもどかしい。ダムの放流で人が死ぬことは絶対にあってはいけない」と訴えました。奥島直道弁護団長も、「人の生命が軽視される判決が許されるのか」と憤りを表しています。
この判決は、大規模災害時のダム管理や自治体の対応をめぐる司法判断として注目を集めており、今後の控訴審での展開が注目されます。



