「この件、前にも説明しましたよね」。上司からそう言われた経験はないだろうか。会議ではきちんと話を聞いていたはずなのに、後から認識のズレが発覚する。メールを読んだつもりなのに、相手が本当に伝えたかったこととは違う解釈をしてしまう。SNSでも、同じ文章を読んでいるはずなのに議論がかみ合わない。こうした現象は、今や珍しいことではない。
元渋谷教育学園渋谷中学高等学校の国語科専任教諭で、市野瀬教育研究所所長の市野瀬早織氏は、「話を聞いていない人が増えたというより、話を正しく理解できない人が増えている」と指摘する。同氏は偏差値70以上の進学校で指導し、教え子の5人に1人を東京大学合格へ導いた経験を持つ。その市野瀬氏が初の著書『東大合格者が身につけた 一生使える「読み方スキル」』(発売たちまち3刷突破)で体系化した「読み方スキル」の観点から、話が通じない人が増えている背景を解説する。
「聞いていたのに伝わっていない」人が増えている背景
市野瀬氏によれば、話が通じない人の共通する欠点は「相手の主張を探さないこと」にあるという。私たちは会話でも文章でも、個々の言葉ばかりを追いかけてしまいがちだ。しかし本来大切なのは、「相手が何を言いたいのか」を理解することだと同氏は強調する。
「話が通じない人ほど、言葉だけを聞いています。単語やフレーズに反応するだけで、相手の意図や主張を読み取ろうとしないのです。これでは、いくら丁寧に説明しても認識のズレが生じます」(市野瀬氏)
一方、話が通じる人は、相手の主張を常に探しながら聞いている。市野瀬氏はこれを「相手の主張を探す人」と表現し、こうした姿勢が正確な理解につながると説く。
東大合格者が自然に身につける「読み方スキル」
市野瀬氏は、東大を目指す学生が自然に身につけている基礎力のひとつが「読み方スキル」だと主張する。文章の要点を素早くつかみ、自分の言葉で説明できる。相手の意図を正確に理解し、的確に判断できる。こうした力は、入試にとどまらず、社会人として仕事を遂行するためやリーダーとして活躍するためにも欠かせない能力である。
「読み方スキルとは、単に文字を読む技術ではありません。情報の背景にある意図や論理構造を読み解く力です。これがあれば、会議での発言やメールのやり取りでも誤解が減ります」(市野瀬氏)
同氏はこのスキルを誰でも今すぐ使えるように体系化し、著書にまとめた。同書は発売たちまち3刷を突破するなど、話題を呼んでいる。
「話が通じない」問題の社会的影響
この問題は個人間のコミュニケーションにとどまらない。職場での認識のズレは業務効率の低下やミスにつながり、SNSでの議論のすれ違いは対立を深める原因となる。市野瀬氏は、「読み方スキル」を身につけることで、こうした問題の多くが解決できると指摘する。
「特に社会人になってからは、情報を正確に理解し、適切に行動することが求められます。読み方スキルは、仕事の質を大きく向上させる基盤となります」と市野瀬氏は語る。
市野瀬氏は今後も、教育現場や企業研修などを通じて、読み方スキルの普及に努めていく方針だ。



