和歌山県警かつらぎ署は、管内で多発する駐車場内での事故を減らすため、駐車区画に後進での駐車(バック駐車)を促す文字と記号を表示する取り組みを行っている。強制せず、ちょっとしたきっかけで望ましい行動に導く行動経済学の「ナッジ理論」を活用した施策だ。同署は効果を検証し、さらなる推進を目指す。
「マエ」の表示でバック駐車を促す
9月29日、和歌山県橋本市高野口町にあるスーパー「マツゲン伏原店」駐車場の複数区画に「マエ」という文字と矢印が表示された。雨が予想されたため、本来の塗料ではなくチョークで署員が前日に記したものだ。この区画に駐車した同市の団体職員の男性(68)は「普段からバック駐車しているが、(表示は)バック駐車を意識するきっかけになるのでは」と話した。
当日は署員に加え、同署に職場体験に来ていたかつらぎ町立妙寺中学校2年の生徒が、スーパーの利用客らにバック駐車を呼びかけていた。同署がバック駐車を推奨する理由は、駐車場内での物損事故が相次いでいるからだ。
駐車場内の事故が全体の3割近く
同署によると、1~8月に県内で発生した物損事故は1万8135件で、このうち29.4%が駐車場内で発生。同署管内では、521件の物損事故のうち32%が駐車場内で起きており、分類別では国道や市町道を上回り最多だ。
同署交通課の永長雅史課長は「駐車場内では、車両の後退時に事故が発生するケースが多い」と指摘する。特に後進で発車する場合は、後方の左右確認が難しく、バック駐車より事故の危険があるという。
ナッジ理論の活用と今後の展望
そこで同署は、コンビニやスーパーでレジ前に等間隔に並ぶよう促す足跡のマークなど、社会で盛んに使われているナッジ理論に着目。数年前から同署の駐車場で試験的に「マエ」の表示をしたところ、一定の効果がみられたため、今回の実施を決めた。
永長課長は「駐車場内でも車両と歩行者がぶつかれば、重大な事故になる危険がある。効果を確かめ、将来的には他の駐車場にも広げていきたい」と話した。
ナッジ理論に詳しい大阪大社会経済研究所の花木伸行所長(行動経済学・実験経済学)は「バック駐車と前向き駐車の2択で迷っている人が、バック駐車を選択しやすくなる可能性がある取り組みだ。一方、表示が運転手に見えづらかったり、『前向きに駐車する』という意思が強い人への効果が薄かったりする課題がある。効果を検証し、よりよい施策につなげてほしい」と話す。
ナッジ理論とは、英語で「肘で軽くつつく」「そっと後押しする」といった意味で、情報の伝え方を工夫することで人々の自発的な行動変容を促す考え方。第一人者で米国の経済学者リチャード・セイラー氏は2017年にノーベル経済学賞を受賞した。