「鉄道を長年やってきた人からすると、まず『大手なのに恥ずかしい』と考えてしまいます」――こう振り返ったのは、西武鉄道(埼玉県所沢市)の町田明史(取締役 常務執行役員 鉄道本部長)だ。省エネルギー(省エネ)対応が求められる中、省エネ性能が高い車両を他の鉄道会社から譲り受けるという社内からの提案に対する言葉だった。
西武鉄道が直面する3つの課題
西武鉄道は、前身である武蔵野鉄道の設立から114年を数える。同社の町田氏は、持続可能な鉄道事業運営に向けた課題として3点を挙げた。
- 需要変化:人口減少と行動変容への対応
- 環境対応:社会要請としての脱炭素
- 人材不足:採用環境の厳しさと労働人口の減少
最も影響が大きいというのが需要変化だ。コロナ禍でのテレワーク拡大で通勤需要が落ち込んだ。地方移住や人口減少などによって、沿線の生産年齢人口も2050年には約10%減る見通しだ。町田氏は「出社回帰といわれるが、テレワークを併用した働き方の中で、必ずしも定期券を購入するお客さまばかりではない」と述べる。
同社が選んだのは、事業を小さくしながら収支のバランスを維持する「縮小均衡」ではなく、沿線価値の向上による需要創出だ。ターミナルをなくす連続立体交差事業では、2015年に事業が完了した田無線の西武柳沢駅で乗降客数が全線平均を上回る6.3%増となった。1999年まで車両工場だった土地を使い、西武グループが商業施設「エミテラス所沢」を開業した所沢駅でも、乗降客数は全線平均を大きく上回った。
「大手なのに恥ずかしい」――固定観念を破った「車両更新の逆転」
課題の2つ目である環境対応で鍵になるのは、車両の省エネ化だ。国土交通省は鉄道分野のGX(グリーントランスフォーメーション)に向け、消費電力を抑える「VVVFインバーター制御」への転換を2035年度までに全列車で完成させることを目指す。だが西武鉄道の更新は遅れ、2025年度末時点でも2割強が非VVVF車両のままだ。
そこで同社はVVVF化100%の目標を、国の目標より5年早い2030年度に設定し、車両の新造に加えて他社からの譲受車両を「サステナ車両」として活用する道を選んだ。環境負荷の少ない譲受車両を指す同社独自の呼称で、小田急電鉄の「8000形」や東急電鉄の「9000系」に更新・改修を施し、西武線での運用に適合させている。
このアイデアは、コロナ禍で投資余力が問われる中、鉄道部局の外から出てきた。
「鉄道を長年やってきた人からすると、まず『大手なのに恥ずかしい』と考えてしまいます。他社の車両を持ってきても無理だと、固定観念で見てしまいます」と町田氏は振り返る。一方、部局外からは「同じ電圧で同じ性能で同じ車体長で揃っているのだから、載せ替えれば動くだろう」という声が上がった。
実際に着手すると誤算もあった。「各社の車両はそれぞれの会社に合わせて、想定以上にカスタマイズされていた」と町田氏は語る。他社では4両を1セットとして扱う「4両固定編成」で運用していたが、西武鉄道は4両+4両+2両で10両編成を組んでいた。こうした違いから、改修や運用変更が必要な箇所は当初の想定を上回ったが、新たな車両の製造と合わせることで、車両の更新を加速させている。
人材不足、業務も育成も負担増――「じっくり育てるやり方は通用しない」
3つ目の課題である人材不足への対応も急務だ。鉄道業界は労働力不足が加速する中、熟練技術者の退職や採用難が深刻化している。西武鉄道も例外ではなく、定期運転士はコロナ禍で大幅に落ち込んだ。回復傾向にあるが、2025年度の定期運転士は2019年度比で13%減ったままだ。乗務員は50歳以上の比率が高い。
こうした状況下で、従来のように時間をかけて人材を育成する余裕はない。同社は業務の効率化やデジタル技術の活用などによって、限られた人員で安全で質の高い鉄道運営を維持する取り組みを進めている。
西武鉄道は、老朽化した設備の更新や環境対応、人材不足という鉄道業界共通の課題に対し、固定観念にとらわれない独自の戦略で挑んでいる。社内から出た「サステナ車両」の活用という提案は、投資余力が限られる中での現実的な解として、車両更新の加速につながっている。