水俣病近畿訴訟、原告側が国の主張支える医師を証人申請、高裁が採用
水俣病近畿訴訟、原告側が国の主張支える医師を証人申請、高裁が採用

水俣病の公式確認から70年。どんな症状なら患者と認められるのかをめぐる争いは今も続く。大阪高裁で審理中の近畿訴訟では、被告である国の医学的な主張を長年支えてきた医師を、原告側があえて証人として申請し、尋問が実施されることが決まった。国側に有利な立場の証人を原告側が自ら求める異例の展開となっている。

国の主張を支える「衛藤論文」

各地の水俣病訴訟では、手足などで痛さや、熱さ、冷たさが感じにくくなる感覚障害だけでも水俣病と認められるのかどうかが、長年争われている。「感覚障害だけでは直ちに水俣病とは言えない」とする国側の主張を支えてきたのが、元国立水俣病総合研究センター所長の衛藤光明氏らが1994年に発表した「衛藤論文」だ。

衛藤氏は、水俣病の症状が疑われながら患者と認められないまま亡くなった101人の解剖結果を調べた。論文では、生前に感覚障害だけが確認された21人のうち、衛藤氏らが水俣病の特徴と考える神経系の異常パターンが確認されたのは2人だけで、この2人についても感覚障害が水銀のせいとは言い切れないとした。

一審判決と控訴審の争点

近年の水俣病訴訟では、この衛藤論文を根拠にした国の主張を採り入れるかどうかで判決が分かれる傾向となっている。こうした流れの中で、近畿訴訟の一審・大阪地裁判決(2023年9月)は大きな注目を集めた。衛藤論文では異常パターンの有無について具体的な判断過程が説明されておらず、21人という少数の例で一般的な傾向を論じることにも疑問があると指摘。「感覚障害のみの水俣病の頻度が低いとの結論を導くことはできない」として、原告128人全員を水俣病と認め、国側に賠償を命じた。

控訴した国側は23年12月、この一審判決に反論する衛藤氏の意見書を追加で証拠提出。これに対し、原告弁護団は今年2月、衛藤氏をあえて証人申請した。国側の主張の根拠を、本人に直接ただすことをねらったものだ。

出張・非公開での尋問方針

国側も尋問を求めた結果、高裁は7月、衛藤氏の証人申請を採用する方針を示した。12月に実施予定という。公害訴訟の控訴審で証人尋問が行われるのは異例だ。ただ高裁は、衛藤氏が熊本県に住み、80代と高齢であることなどから、大阪に呼ぶのではなく、裁判官が熊本地裁に出向いて尋問する方針を示している。一般の傍聴は認めず、非公開で行うという。

一方、原告側は、衛藤氏の見解は控訴審の重要な争点に直結するとして、公開での尋問を求め、今月8日に高裁へ意見書を提出した。