熊本地震で震度6強の揺れに見舞われた熊本市では、南区を中心に、地盤が傾いたり砂が噴き出したりする液状化とみられる現象が10地区で確認された。2016年の地震に続いて再び被害を受けた地域も多く、住民は頭を抱え、液状化への対策を訴えている。
「また振り出しに戻ってしまった」
南区の杉島地区で自転車店を営む坂口和博さん(63)は肩を落とす。「また振り出しに戻ってしまった」と話す。
7月の地震で、隣接する自宅と店舗は寄り添うように傾き、至る所から泥水が噴き出した。深さ20センチほどの泥が店舗と自宅前を取り囲み、作業場に置いていた自転車の部品や機械などは使えなくなった。10年前と似た光景に言葉を失った。
南区は16年の地震でも液状化の被害に遭った。坂口さん宅と店舗は傾き、約1000万円をかけて店舗を建て替え、自宅を修繕した。再び被害に遭うとは思っていなかった。店は再開させたものの、大量の砂が噴き出した地盤は頼りなく感じ、「また地震が起きたら」と不安は尽きない。
国が対策工事に補助制度
液状化被害を受けた地域に対し、国は道路などの公共施設と宅地を一体的に復旧させる対策工事に補助制度を設けている。事業費の2分の1を国が、残りを自治体と所有者らが負担。16年の熊本地震や24年の能登半島地震などで復旧に使われてきた。
熊本市によると、16年の地震では市内52地区で液状化とみられる被害が確認された。このうち杉島地区から車で10分ほどの距離にある近見地区では、約10年をかけた対策工事が3月に完了していたこともあり、今回は被害を免れた。
「また泥一面かと10年前が頭によぎり、祈るように外に出たら大丈夫だった」。こう振り返るのは、地震翌年から4年間、近見地区で自治会長を務めた速水幸さん(77)だ。
当時は対策工事に対し、「年も年だし、しなくていい」といった否定的な声もある中、地区の将来を見据えて「住民全員の同意」を目指した。時には市職員と一緒に住民の元に足を運んで思いを伝えたという。
19年に工事に着手し、事業費は約132億円。752戸、約35ヘクタールが対象で、地下水の流入を防ぐため、地区を囲むように鋼矢板を打ち込み、地下に集水管を設置。現在はポンプを介して区域内の地下水を川や水路に継続的に排水している。
「対策の方向性を考えていきたい」
ただ、対策工事の実施は52地区のうち、近見を含めた2地区にとどまった。
市によると、住民負担が生じる可能性があったため積極的な地区は少なく、実施を迷う10地区と話し合いを重ねた。最終的に2地区が残り、住民負担が「ゼロ」となる独自支援を行って実施にこぎつけたという。
この2地区は今回被害が確認されておらず、杉島地区では、抜本的な再発防止策の実施や、被害を受けた住宅への補助拡充を市に求めている。市都市安全課は「皆さんと丁寧に話し合い、対策の方向性を考えていきたい」としている。
能登でも再発を確認
一度液状化した場所が地震で改めて被害を受ける「再液状化」が確認されるケースは他にも出ている。
国立研究開発法人・防災科学技術研究所によると、2024年の能登半島地震では、1964年の新潟地震や2007年の能登半島地震などで液状化した地域とほぼ同じ地点で被害が出ていた。先名重樹・主任専門研究員(地盤地震工学)は「液状化が起きた地点は、対策をとらなければ同等以上の地震が来た際に再び起きる可能性が高い。被害を防ぐため、住民負担が生じないような支援体制の構築が望まれる」とする。