日本女子大学(東京都文京区)に8日、一冊の洋書が寄贈された。見返しには芥川龍之介(1892~1927)の自筆署名が記されている。かねて文学研究者の間で、謎めいた因縁が語られていた本だ。
ケルト文学の全集、第2巻だけが欠けていた
寄贈されたのはケルト文学の第一人者、フィオナ・マクラウド(1855~1905)の全集(全7巻)の第2巻。日本女子大は、芥川と親交のあったアイルランド文学翻訳者・片山広子(1878~1957)の旧蔵書のマクラウド全集を所蔵していたが、第2巻だけが欠けていた。今回の寄贈でひとまず全巻がそろった形になる。
第2巻の欠本は、長らく研究者の間で謎とされてきた。
「知性を媒介にした恋愛」
歌人として活動していた片山が文壇で名を高めたのは1925(大正14)年に松村みね子名義で翻訳したマクラウドの短編集「かなしき女王」だった。いまも読み継がれており、訳した短編のほとんどがこの第2巻に収められている。彼女の蔵書に残っていないはずがない。
一方、芥川の署名本は没後数年して、英文学者の関川左木夫が古書店で入手、関川没後の98年、英文学者の南條竹則さんに譲渡されていた。芥川の蔵書に全集の他の巻は見つかっていない。なぜ、この巻だけ残っていたのか。
芥川の早すぎる晩年に生じた「知性を媒介にした恋愛」とでも呼ぶべき出来事が、この本にまつわる因縁の背景にあるとみられる。